苗字の由来



苗字の80%以上は同一の地名から発祥した 

 我々が日常生活で使っている苗字は現在、30万種類ほどあるといわれていますが、この苗字の由来を知るには、いくつかの方法があります。

 まず苗字が訓読みかどうかという分類です。訓(くん)読みとは日本古来の大和言葉のことで、古い地名はほぼすべてが大和言葉由来の訓読みです。そのため地名から発祥した苗字も当然ながら訓読みとなります。苗字のうち80%以上は地名に由来する訓読み苗字であることが分かっています。地名由来であれば、その地名の語源を知れば、それが苗字の由来ということになり、大抵はご先祖がその地名に住み着いたことにより、その地名を苗字として用いました。ちなみにファミリーネームは名字とも書きます。名字とは中世に用いられた言葉で、ある土地を支配した者がその地名を家名として用いたさいに使いました。その土地を名字の地といい、その家は名字の地の領主だったわけです。

 しかし、時代が下ると、その土地の領主ではなく、ただ住み着いた者も「みょうじ」を名乗るようになりました。殿様から「みょうじ」を下賜された者もあれば、名家の名字を無断で名乗るような者も現れました。そうなると、これらの「みょうじ」を中世の名字という言葉では表現しきれなくなってしまったのです。そこで中世後期以降、歴史家は名字に代わって「子孫」「血が同じく」「根っこが同じ」という意味の苗を用いて、苗字という言葉を使うようになりました。江戸時代の公式な記録には苗字しか出できません。明治3年(1870)に明治政府が出したお触れも名字ではなく、「平民苗字許可令」です。


歴史家の多くは苗字を使用している

 ところが、明治以降、名字の使用が復活し、法律用語では氏が使われるようになりました。そして戦後に苗の「みょう」という読みが常用漢字表から削除されると、名字と書くのが正しいという風潮が一気に広まってしまったのです。歴史的には現在の我々の「みょうじ」は苗字と表記するのが正しいことから、私は苗字しか使いませんが、公的機関やマスコミでは名字が使われているため、苗字研究家という名刺を渡しても、新聞やTVでは名字研究家と無断で変更されていることがあります。これには苦笑いするしかありませんが、アカデミックな研究者である豊田武氏(東北大学名誉教授)は『苗字の歴史』、坂田聡氏(中央大学教授)は『苗字と名前の歴史』、渡辺三男氏(駒澤大学名誉教授)は『日本の苗字』、奥富敬之氏(日本医科大学名誉教授)は『苗字と名前を知る事典』、大藤修氏(東北大学名誉教授)は『日本人の姓・苗字・名前―人名に刻まれた歴史』と、歴史家が「みょうじ」を専門的に解説したときには、名字と苗字の違いを踏まえて苗字をよく使用していることが分かります。


苗字のタイプを知る

 話を戻しますが、苗字の由来をさかのぼると、33種類の型(タイプ)に分類することができます。この分類法は丹羽基二先生が発表されたもので、改良の余地はありますが、苗字由来の分類法としては先駆的存在であり、非常に役立ちます。

 『日本姓氏大辞典』(丹羽基二著 1985年 角川書店)を参考にしながら、33種類の型を紹介しましょう。なお型の解説、参考苗字は私の判断で一部変更しています。


  1. 地名型 同一の地名から発祥したもの。苗字全体の80%以上を占めます。
  2. 氏型 古代の氏(うじ)に由来しているもの。蘇我・物部・藤原・菅原など。
  3. 物象型 動植物や器物、建造物などに由来する物象的な苗字です。机・辻堂など。
  4. 職名型 職業・役職・官職などに由来するもの。目(さっか)・大工など。
  5. 名前型 通称、実名など名前に由来する苗字です。源内・為貞など。
  6. 略姓型 本来の名字を省略したもの。宗(本来は惟宗)・小笠(小笠原)など。
  7. 当て字型 当て字を用いた苗字。池鯉鮒(ちりふ。本来は知立)など。
  8. 佳字型 佳字(かじ)、美称、瑞祥文字で飾った苗字。久保(窪)など。
  9. 転字型 文字の変化(転字)、読みの変化(転音)、連濁。綿谷(綿屋の転字)。
  10. 消失型 現在は消滅してしまっているもの。かつては存在していたもの。
  11. 信仰型 信仰などに関係がある苗字。星(星信仰にちなむ)・月(月信仰)など。
  12. 古姓型 古代姓氏と関係が深いもの。2氏型と要区別。武内(武内宿禰)など。
  13. 外来型 外国渡来、あるいは外国とゆかりが深い苗字。高麗(こま)・秦など。
  14. 沖縄型 沖縄・奄美地方に関係の深い苗字。具志堅・渡嘉敷・恵・元など。
  15. 賜姓型 天皇や殿様から下賜された苗字。薬袋(みない。武田信玄から)など。
  16. 合字型 二字が合わさって一字になった苗字。粂(久米)・小柴(小此木)など。
  17. 商業型 商業に関係する苗字。屋号由来が多い。魚屋・糸谷(糸屋の転字)など。
  18. 皇族型 皇室、宮家、皇族に関係する苗字。有栖川・大后(おおきさい)など。
  19. 人名型 一般的な人名呼称に由来する苗字。奴(やっこ)・早乙女(さおとめ)。
  20. アイヌ型 アイヌ民族、またはアイヌ語に由来している苗字。小比類巻など。
  21. 公家型 公家、または公家の称号に由来している名字。近衛・九条・公卿など。
  22. 複姓型 二つの名字が合一した姓氏。竹田河辺・疋田斎藤など。
  23. 部民型 古代の職業部、名代部、子代部など部民(べみん)に由来する苗字。
  24. カバネ型 古代のカバネ(姓)に関係しているもの。村主・連(むらじ)など。
  25. 蝦夷型 蝦夷と関係の深い苗字。蝦夷(えぞ)・夷俘(えみし)など。
  26. 仏教型 仏教に関係が深い苗字。僧侶の明治新姓。釈(しゃく)など。
  27. 神道型 神社や神道とゆかりが深い苗字。神(みわ)・三輪(みわ)など。
  28. 事象型 事柄、出来事、いわくなどから起こった苗字。栗花落(つゆり)など。
  29. 芸名型 雅号、芸名、筆名、別称に由来する苗字。体阿弥・幸若など。
  30. 敬称型 敬称に由来する苗字。王(おう)・殿(どの)・卿(きょう)など。
  31. 屋号型 屋号に由来する苗字。17商業型と要区別。角谷(角屋の転字)など。
  32. 族名型 古代の種族名などに由来する苗字。隼人(はやと)など。
  33. 未詳型 由来が不明の苗字。

 なお、現在の苗字の多くは1の地名型です。地名型は地形由来とその他由来に分類でき、その他由来は多くが2以下の要素のどれかを含んでいるため、地名型であり、なおかつ他の型の要素を含むという重複型の苗字が数多くあります。

 ほかに34として藤姓型を付け加えてもいいでしょう。第38代天智天皇の重臣藤原鎌足(614-69)の流れをくむ藤原氏の子孫という〇藤姓がトップ100のなかに10姓も含まれており、〇藤姓は一つの型として十分すぎる存在感を放っているからです。


日本のトップ100姓のタイプは何か?

 日本の大姓トップ100のタイプと由来を紹介しましょう。

 この100姓で日本の人口の約33%を占めます。3人に1人が使っている苗字ということになります。表記は順位、苗字、代表的な読み方、ヘボン式ローマ字表記、苗字のタイプ、使用人数、由来です。なお渡辺さんの「辺」の異体字「邊」「邉」、斎藤さんの旧字表記の「齋藤」などは別の苗字としてカウントしています。


第1位 佐藤 さとう Sato 

 氏・地名・職名型 約1,887,000人

 左衛門尉(御所の門を警備する武官)+藤原氏。


第2位 鈴木 すずき Suzuki  

 物象・職名型 約1,806,000人

 和歌山県の熊野大社の神職穂積氏の一族など。


第3位 高橋 たかはし Takahashi 

 地名・物象・職名型 約1,421,000人

 高橋地名に由来。高台の端、天地をつなぐ橋。


第4位 田中 たなか Tanaka 

 地名型 約1,343,000人

 田中地名に由来。古くにつくられた田んぼ。


第5位 伊藤 いとう Ito 

 氏・地名型 約1,081,000人

 伊勢(三重県)+藤原氏 伊豆(静岡県)+藤原氏。


第6位 渡辺 わたなべ Watanabe 

 職名・地名型 約1,070,000人

 第52代嵯峨天皇の流れをくむ嵯峨源氏など。川の渡船場。


第7位 山本 やまもと Yamamoto 

 地名型 約1,057,000人

 山本地名に由来。山の麓。元は山の住人。


第8位 中村 なかむら Nakamura  

 地名型 約1,051,000人

 中村地名に由来。古くから開けた中心的な村落。


第9位 小林 こばやし Kobayashi  

 地名型 約1,034,000人

 小林地名に由来。ハヤシとは生命力の象徴。


第10位 加藤 かとう Kato 

 氏・地名型 約892,000人

 加賀国(石川県)+藤原氏。藤原利仁流など。


第11位 吉田 よしだ Yoshida 

 地名型  約835,000人

 吉田地名に由来。豊かな実りを願った吉祥地名。 


第12位 山田 やまだ Yamada 

 地名型 約819,000人

 山田地名に由来。山の斜面の棚田など。


第13位 佐々木 ささき Sasaki 

 職名・地名型 約679,000人

 第59代宇多天皇の流れをくむ宇多源氏など。


第14位 山口 やまぐち Yamaguchi  

 地名型 約647,000人

 山口地名に由来。山の登り口。


第15位 松本 まつもと Matsumoto  

 事象・地名型 約631,000人

 松本地名に由来。松は常緑樹で縁起のよい木。


第16位 井上 いのうえ Inoe 

 地名型 約617,000人

 井上地名に由来。井ノ辺で井戸のまわり。


第17位 木村 きむら Kimura  

 地名型 約579,000人

 古代の紀氏の本拠地。樹木の多い山や村。


第18位  はやし Hayashi 

 地名型 約548,000人

 林地名に由来。ハヤシとは神様を喜ばす音楽。


第19位 斎藤 さいとう Saito  

 氏・職名型 約546,000人

 伊勢神宮の斎宮寮(皇女のお世話係)+藤原氏


第20位 清水 しみず Shimizu 

 事象・地名型 約535,000人

 清水地名に由来。清らかなスミ水のこと。 


第21位 山崎 やまざき・やまさき 

 Yamazaki ・Yamasaki 

 地名型 約485,000人

 山崎地名に由来。山の裾野。


第22位  Mori  

 地名型 約468,000人

 森地名に由来。森は神聖な空間。


第23位 池田 いけだ Ikeda 

 地名型 約453,000人

 池田地名に由来。池とは人工的な貯水池。


第24位 橋本 はしもと Hashimoto 

 地名型 約450,000人

 橋本とは橋のたもとのこと。 


第25位 阿部 あべ  Abe 

 地名型 約447,000人

 「あべ」とは低湿地、御料地などのこと。


第26位 石川 いしかわ Ishikawa 

 地名型 約429,000人

 石川とは石の多い川のこと。


第27位 山下 やました Yamashita 

 地名型 約421,000人

 山本と同じく山の麓のこと。


第28位 中島 なかじま・なかしま 

 Nakashima・ Nakajima 

 地名型 約403,000人

 中島とは村落などの中心地。


第29位 石井 いしい Ishii 

 地名型 約398,000人

 石でつくった井戸のこと。


第30位 小川 おがわ Ogawa 

 地名型 約398,000人

 小川とは御川でみそぎをする川。


第31位 前田 まえだ Maeda 

 地名型 約384,000人

 前田とは領主屋敷や鎮守などの前の土地。


第32位 岡田 おかだ Okada 

 地名型 約381,000人

 岡田とは小高い岡のこと。


第33位 長谷川  はせがわ Hasegawa 

 転字・地名型 約379,000人

 長く狭い谷川のこと。  


第34位 藤田 ふじた Fujita 

 地名型 約377,000人

 藤の花が咲く土地。


第35位 後藤 ごとう Goto 

 氏・地名型 約374,000人

 藤原氏の後(子孫)という意味。


第36位 近藤 こんどう Kondo 

 氏・地名型 約371,000人

 近江国(滋賀県)+藤原氏。藤原秀郷流。


第37位 村上 むらかみ Murakami 

 地名型 約357,000人

 村落の上手。


第38位 遠藤 えんどう Endo  

 氏・地名型 約335,000人

 遠江国(静岡県西部)+藤原氏。


第39位 青木 あおき Aoki 

 地名型 約330,000人

 青木とは緑色の葉が茂る木。


第40位 坂本 さかもと Sakamoto 

 地名型 約328,000人

 坂の上り口のこと。


第41位 斉藤 さいとう Saito 

 転字型 約325,000人

 斎藤さんの変化形。ルーツは同じ。


第42位 福田 ふくだ Fukuda 

 地名型 約314,000人

 幸福をもたらす土地のこと。


第43位 太田 おおた Ota 

 地名型 約312,000人  

 広く大きな田地、または古代の大田部に由来。


第44位 西村 にしむら Nishimura 

 地名型 約310,000人

 本村の西にできた村のこと。


第45位 藤井 ふじい Fujii 

 地名型 約310,000人

 藤原氏の子孫。藤が咲く土地。


第46位 岡本 おかもと Okamoto 

 地名型 約298,000人  

 岡の下、岡の麓(ふもと)。


第47位 藤原 ふじわら Fujiwara 

 氏・地名型 約298,000人  

 古代の氏が苗字に転じた。


第48位 金子 かねこ Kaneko 

 地名・事象型 約297,000人

 金屋子神を祀る鍛冶屋の子孫。たたら場。


第49位 三浦 みうら Miura 

 地名型 約297,000人

 重要な港のこと。


第50位 中野 なかの Nakano 

 地名型 約296,000人

 上野と下野の中間にあるのが中野。


第51位 中川 なかがわ Nakagawa 

 地名型 約292,000人

 川の中流、真ん中の川など。


第52位 原田 はらだ・はらた 

 Harada・Harata 

 地名型 約292,000人

 平たい広い土地。


第53位 松田 まつだ Matsuda 

 地名型 約290,000人

 吉祥の松の木が生えている所。


第54位 竹内 たけうち・たけのうち 

 Takeuchi・ Takenochi 

 地名・名前型 約287,000人

 武内宿禰の子孫、または窪地。


第55位 小野 おの Ono 

 地名型 約282,000人

 御野で神様の食料を収穫する地。


第56位 田村 たむら Tamura 

 地名・名前型 約281,000人  

 平安の名将坂上田村麻呂将軍の名前に由来。


第57位 中山 なかやま Nakayama 

 地名型 約270,000人

 連なった山の真ん中。


第58位 和田 わだ Wada 

 地名型 約268,000人

 作物が豊かに実る土地のこと。


第59位 石田 いしだ Ishida 

 地名型 約267,000人

 小石が多い場所のこと。


第60位 森田 もりた Morita 

 地名型 約261,000人

 森田とは神がすむ森のこと。


第61位 上田 うえだ Ueda 

 地名型 約249,000人

 上手の土地のこと。


第62位  はら Hara 

 地名型 約247,000人

 平らな原野のこと。千葉県発祥は桓武平氏。


第63位 内田 うちだ Uchida 

 地名型 約245,000人

 内田とは自分の私有している土地のこと。


第64位 柴田 しばた Shibata 

 地名型 約244,000人

 雑木の柴が多い土地のこと。


第65位 酒井 さかい Sakai 

 地名型 約241,000人

 酒田とは栄(さか)える土地のこと。


第66位 宮崎 みやざき Miyazaki 

 地名型 約239,000人

 宮崎とは神社の前の土地のこと。


第67位 横山 よこやま Yokoyama 

 地名型 約238,000人

 横にのびた山の尾根のこと。


第68位 高木 たかぎ Takagi 

 地名・物象型 約234,000人

 天と地を結ぶ高い木。


第69位 安藤 あんどう Ando 

 氏・地名型 約232,000人

 奥州安倍氏+藤原氏。安東と改姓した一族も。


第70位 宮本 みやもと Miyamoto 

 地名型 約230,000人

 宮本とは神社領の田んぼ。


第71位 大野 おおの Ono 

 地名型 約222,000人

 大野とは未開拓の荒野のこと。


第72位 小島 こじま Kojima 

 地名型 約217,000人

 小は接頭語で、「しま」は区画を表す。


第73位 工藤 くどう Kudo 

 氏・職名型 約216,000人

 木工助(朝廷の建設省次官)+藤原氏。


第74位 谷口 たにぐち Taniguchi 

 地名型 約216,000人

 谷の入り口のこと。


第75位 今井 いまい Imai 

 地名型 約214,000人

 新鮮な水がわく井戸、水路。


第76位 高田 たかだ・たかた 

 Takada・Takata 

 地名型 約211,000人

 高田とは高台のこと。


第77位 増田 ますだ・ました 

 Masuda・Mashita 

 地名型 約209,000人

 増田とは増収を願った地名。


第78位 丸山 まるやま Maruyama 

 地名型 約209,000人

 おわん形の山を丸山という。


第79位 杉山 Sugiyama 

 地名型 約208,000人

 文字通り杉の生えている山。


第80位 村田 むらた Murata 

 地名型 約207,000人

 田が群(むら)がり増えること。


第81位 大塚 おおつか Otsuka 

 地名型 約206,000人

 大塚とは、大きな古墳のこと。


第82位 新井 あらい Arai 

 地名型 約204,000人

 新しい用水路。新しい開墾地。


第83位 藤本 ふじもと  Fujimoto 

 地名型 約204,000人

 藤や柴の繁茂している地。

 

第84位 小山 こやま・おやま 

 Koyama・Oyama 

 地名型 約204,000人

 小は接頭語で、山のこと。藤原姓など。


第85位 平野 ひらの Hirano 

 地名型 約204,000人

 平は平地ではなく、傾斜している野原。


第86位 河野 こうの・かわの 

 Kono・Kawano 

 地名型 約201,000人

 川沿いの野原。愛媛県の名族は越智姓。


第87位 上野 うえの Ueno 

 地名型 約201,000人

 村落の中心などからみて上手(高所)。


第88位 武田 たけだ Takeda 

 地名型 約200,000人

 竹林がある土地のこと。清和源氏など。


第89位 野口 のぐち  Noguchi 

 地名型 約199,000人

 野原の入り口のこと。


第90位 松井 まつい Matsui 

 地名型 約195,000人

 井は井戸に限らない。松の生えている所。


第91位 千葉 ちば Chiba 

 地名型 約194,000人

 葛の繁茂地など。桓武平氏。


第92位 菅原 すがわら Sugawara 

 地名・氏型 約193,000人

 菅原とは湿地で菅の繁茂地。


第93位 岩崎 いわさき Iwasaki 

 地名型 約192,000人

 山や海辺にある大きな岩の先端。


第94位 久保 くぼ Kubo 

 地名・佳字型 約188,000人

 土地を久しく保つという意味の佳字。


第95位 木下 きのした Kinoshita 

 地名型 約188,000人

 神聖な木が生えているところ。


第96位 佐野 さの Sano 

 地名型 約186,000人

 狭い野原や原の美称。


第97位 野村 のむら Nomura 

 地名型 約186,000人

 野原にある村落のこと。


第98位 松尾 まつお Matsuo 

 地名型 約184,000人

 原義は松生で、松林の地。


第99位 菊地 きくち Kikuchi 

 地名・転字型 約183,000人

 山あいの狭い土地。菊池の変化形で東北に多い。


第100位 杉本 すぎもと Sugimoto 

 地名型 約182,000人

 杉の生えている所。杉は神様のよりしろ。  


 このように分類すると、いかに地名型の多いかがよく分かります。ご自分の苗字が地名型であるかどうかを知る簡単な方法があります。それは漢和辞典を持ってくることです。漢和辞典でご自分の苗字の漢字を引いてください。読み方が書いてありますが、ひらがなで表記されているのは訓(くん)読み、カタカナで表記されているのは音読みです。あなたの苗字が漢字2字で構成されている(高橋・山田さんなど)としましょう。2字ともに訓読みであれば、非常に高い確率で地名型です。なぜなら地名の大多数は訓読みだからです。訓読みは、日本古来の言葉ですから、古い地名は例外なく訓読みなのです。一方、音読みだったとすると、非地名型と考えられます。ほかの型を検討することになるでしょう。湯桶(ゆとう。訓・音)読み、重箱(じゅぅばこ。音訓)読みも非地名型の可能性が高いです。

 いずれにしても苗字の由来を解読するためには、地名学の知識が絶対に不可欠です。それなくして大半の苗字の由来は解明できません。



大和言葉の語源を知る

 地名の語源を解釈できれば、苗字の約80%の由来は解き明かせます。そのためには、地名に使われている大和言葉の語源を知らなければなりません。以下におもな大和言葉の語彙の語源を並べてみました。語源解釈は日々進歩しているため、この解釈が必ずしも的を得ているとは言い切れませんが、語源を知る手掛かりにはなるはずです。

 使い方ですが、たとえば山田さんであれば「や・ま・だ」「やま・だ」「や・まだ」という語彙の語源を組み合わせてみます。それによってイメージできる地名や情景を思い浮かべます。通常は当てられた文字の区切りが大和言葉の語彙の区切りと一致していることが多いので、山田さんであれば、「やま・だ」の語源がもっとも有力ということになります。もしも文字の区切りでは不自然なものしか出来上がらない場合は、苗字事典を見て同音異字の苗字を調べて、他の区切りで文字があてられていないかを確認します。そういう作業を繰り返していくと、じょじょに地名語彙とは、どのように組み合わせるのが適切か、ということが分かってくるものです。


あ  ①接頭語②湿地③漁場

あい ①谷間②合流③湿地

あお ①白以外の色②湿地

あか ①赤色②開墾地

あき ①美称②湿地③高地

あさ ①浅い②小さい③傾斜地

あま ①高所②海③湿地

あら ①急流②崖地③新しい

あり ④目立つ②突き出る 

い  ①接頭語②水辺③神聖

いい ①高所②水辺

いし ①石②磯辺

いず ①泉②温泉③突起

いそ ①数多い②断崖絶壁

いた ①板木②削られた

いち ①一番目②市場③厳粛

いと ①磯辺②内部③細い

いな ①砂地②野原③水田

いぬ ①低い②狭い③小さい

いま ①新しい②タブー

いり ①川の上流②谷③西

いわ ①岩②崖③堤防

う  ①接頭語②東

うえ ①高所②末(果て)③植える

うき ①泥地

うち ①内側②入江③接尾語

うま ①馬②南③崖地

うめ ①海辺①埋立地③梅の木

うら ①先端②下方③入江④内側

え  ①水辺②枝分かれ③高所

お  ①接頭語②岡③末端

おい 「大」「多い」の転化

おお ①美称②大きい③立派

おか ①岡②上③尾根④陸地

おく ①奥まった所②上流


か  ①強意の接頭語②接尾語③川

かえり①山すその草原

かき ①区切られた地②崖

かた ①方面②遠浅水辺③傾斜

かど ①泉②川③門④空き地

かな ①金属②直線③直角

かね ①金属

かま ①岩穴②淵③穴④窪み

かり ①山畑②狩猟③崖地

かわ ①川②泉③井戸④堀⑤池

き  ①木②柵③接尾語④黄色⑤接頭語

きく ①山峰②包む③菊

きし ①岸壁②崖③水辺④傾斜地

きた ①北②崖の上の平地

きど ①城門②水門③狭い

きり ①桐②断崖③切れ目

く  ①接尾語②崩壊地

くさ ①採草地②湿地③傾斜地

くに ①大きな地②国府

くぼ ①窪地②山頂③尾根のたわみ

くま ①曲がる②隅③暗所

くら ①岩壁②谷③岩の多い山

くろ ①積む②小高い③斜面④かたわら

くわ ①そば②崖③窪地④桑

こ  ①小さい②接尾語③木④近く

ごう ①地方区画の郷②川

こし ①頂上②嶮岨な谷③断崖


さ  ①狭い②小さい③下方④坂

さい ①狭い谷間②障害物③水

さか ①傾斜地②峠③土地の境

さき ①狭い②裂く③先(末)端

ささ ①小さい②細かい(砂地)

さだ ①岬②先端③限定

さわ ①山間の湿地②水辺③窪地

し  ①石②接尾語③下

しお ①谷の奥②肥えた土地③湿地

しか ①州浜②干潟③漁業地

しげ ①湿地②重なり茂る③未開発地

した ①下方②山の麓③底

しの ①湿地②傾斜地③目立つ④隠れる

しば ①芝草②林③焼畑④崖崩れ

しぶ ①沼地②湿地③泥地④谷の狭所

しま ①水に囲まれた陸地②州浜③仕切り地

しも ①川の下流②低地

しら ①白色②素朴③乾燥④傾斜地

しろ ①白色②雪③塩④砦

しん ①新しい

す  ①接頭語②砂地③浅瀬

すえ ①末(先)端②陶器製作地

すが ①砂地②中洲③川べり

すす ①尖る②薄③神聖

すな ①砂地②土③少ない

すみ ①奥②端③曲がり角④集落

せ  ①浅瀬②急流③山の稜線④狭い

せき ①関所②水を止めた所③用水路

せと ①狭い②路地③裏手

そ  ①外②接尾語

そね ①山頂②尾根③痩せた土地

その ①野菜の栽培地②畑③家の裏


た  ①接尾語で場所②耕作地③接頭語

だい ①山頂②台地③野原④低湿地

たか ①高所②田地③陸地

たき ①山②崖③急流

たけ ①山②高所③川の上流④竹

たて ①岡の尾根の先端②傾斜地③砦

たに ①谷川②谷

たま ①接頭語②神社③湿地

ち  ①接頭語②接尾語③多い

つ  ①港②渡し場③泉④接尾語

つか ①盛り上がった土地②墓③畑の単位

つき ①高所②突き出る③埋立地

つじ ①峰②頂上③先端④四つ角⑤合流点

つち ①土②湿地③高所

つつ ①包まれる②さえぎる③崩れる

つぼ ①窪地②淵③庭

つる ①細く曲がる②耕作地③鶴

て  ①接尾語②接頭語

てら ①寺院②墓③神社④平坦地

と  ①接尾語②接頭語③狭い所

どい ①土手②豪族屋敷

とう ①山頂②峠③下り坂④傾斜地

とち ①囲まれた土地②栃

どて ①崖②傾斜地③池

とね ①高所②山頂③段丘

とみ ①瑞祥語

とり ①切り取る②傾斜地③西


な  ①接尾語②接頭語③野原

ない ①川②沢③谷

なか ①中央②中間③神域

なが ①長い②傾斜地③接頭語

なべ ①平坦地②急傾斜地③崩壊地④への転化

なみ ①波打つ②平坦地③並ぶ

なめ ①平坦地②崖③並ぶ④湿地

なら ①平坦地②山間の小平地

なり ①接尾語②平坦地

なる ①山間の平坦地②平地

なわ ①たわんだ土地②真っすぐ

に  ①赤土②水銀採取地③接尾語

にい ①新しい②赤土

にし ①西②崩壊地③湿地

ね  ①山の麓

の  ①野原②田畑


はし ①端っこ②橋

はったん ①八反の地

はな ①先端

ひ  ①日当たり②樋(とい。水路)

ひら ①崖②傾斜地

ひろ ①広い②低い

ふか ①湿地②深い

ふき ①沼地②風の吹く所

ふく ①佳字②ふくらんだ所

ふじ ①吹き抜け穴②高所③藤の木

ふな ①船②舟形

ふる ①古い②火

へ  ①あたり

ほし ①干す②星信仰

ほそ ①細くせばまった所

ほら ①山が崩れた所②洞穴

ほり ①水路②池

ほん ①元になる所


ま  ①接頭語②立派な

まえ ①神社仏閣などの前方

まき ①牧場

まし ①細かい砂

ます ①四角形

まち ①区画した田地

まつ ①松の木②佳字としての松

まと ①弓の的②円形

まる ①円形②川や山すその屈曲する所

み  ①「御」で尊敬②「美」で美称

みず ①水

みぞ ①人工の水路

みね ①山頂

みの ①山ぞいにわずかにある高低差のある地

みや ①神社

むら ①集落②群がる

め  ①狭い場所②境目③接尾語

も  ①接頭語②接尾語③多い

もち ①餅形の土地②小さい盆地

もと ①地面②場所③親村④古い

もり ①小高い土地②塚(墓)③砂丘④神聖

もろ ①山②並ぶ③洞穴


や ①岩②湿地③小さな谷

やぎ ①岩や木陰の漁場②山間の狭い小谷③柳

やす ①沼地②痩せ地③州浜

やた ①低い湿地

やつ ①低い湿地

やぶ ①低木の繁茂地②焼畑

やま ①盛り上がった土地②森③林④耕作地

ゆ  ①用水路②泉③温泉

よ  ①美称②横③区切られた土地

よこ ①横②延びる③側面④東西

よし ①美称②葦が生えている湿地

よね ①砂地②米

より ①近づく②共同で利用する土地

よろず ①万物の栄えを願った佳字②屋号の万屋


ら  ①そば②隣③接尾語

ろ  ①接尾語②場所


わ  ①曲がる②上③接頭語

わか ①分岐点②湿地③高所

わき ①分岐する②そば③湧水地

わた ①曲がる②水辺③渡船場

わだ ①入江②窪地③屈曲地

わに ①黄赤色の粘土

わら ①野原②開墾地③集落④群れる   


 橋本さんであれば、「はし」=①端っこ②橋、「もと」=①地面②場所③親村④古い。これらの語源を踏まえたうえで大和言葉に当てられた橋本という文字も考慮すると、「はし」は①橋、「もと」は①地面(たもと)が適切と判断され、由来は「橋のたもと」ということになります。ただし、全国に数多くある「はしもと」地名の中には「端っこの場所」という意味のものもあるかも知れませんが、それの可能性は限りなく低いでしょう。

 もうひとつ。

 梅田さんは、「うめ」=①海辺②埋立地③梅の木、「だ」「た」=①接尾語で場所②耕作地③接頭語の組み合わせです。梅のつく地名の場合、「うめ」が梅の木を意味しているものはほとんど見当たりません。地名として多いのは②埋立地です。埋立地の多くは水辺にありますから、①の海とも関係があります。よって梅田さんの由来は②埋立地+①場所がもっともよく考えられるということになります。こういう取捨選択をするためには、やはり地名の知識が必要となります。


場所を意味する地名語彙の多さ

 地名語彙の中で目立って多いのは、山岳国家日本らしく崩壊地、傾斜地を示す語彙と場所を示す語彙です。このうち、場所を示す語彙は多くの地名や苗字に接尾語として使用されていますので、改めて紹介しましょう。

 あなたの苗字の最後にこれらの語彙が付いていれば、それは地名用語で場所を示す言葉です。


」「

 一定の領域、場所(間)を意味します。

やま(山、夜麻)」

 樹木におおわれ鬱蒼(うっそう)としたところ。「さん(山)」のことは原日本語では「たけ(岳、嶽)」と呼びました。

しま(島)」

 水に囲まれたところ。「し」は水を意味する要素です。

(多摩)」

 周辺より高い領域のこと。「玉」なども同じ。「た」は「高い」ことを表現する要素で、「たけ(岳)」の「た」も同じ。

(間々)」は丸い形の場所。語頭の「ま」は「まる(丸)」を意味する語要素。

(天)」

 はるか高い領域のこと。または、はるか離れた領域、場所のこと。または、海を隔てた領域を意味します。「あまくさ(天草)」「あまのはしだて(天橋立)」など。

 「田」をあてる例が多いですが、水田という意味だけではありません。水田よりも、ある特性の場所を示す地名用語としてよく使われました。足(た)を地(つ)に付ける「たつ(立つ)」に由来しているものと思われます。

(浦)」

 周辺より小高い場所。主として水辺の高み。

(白、代)」

 低湿地のこと。「水田」に関連した用語に多く使われています。

」、「

 「へり(縁)」に示されるように、ある領域の境界部を意味します。


苗字における連濁

 日本語の発音には連濁(れんだく)という現象があります。これは山口のような二つの語が結合して複合語を形成するとき、後ろの語の語頭の清音が濁音に変化して「やまくち」から「やまぐち」に変わる現象のことです。苗字ではない語では生花(いけばな)、本箱(ほんばこ)、百円玉(ひゃくえんだま)がよく例に用いられますが、いずれも連濁を起こしています。ただし水玉のように前に濁音があると連濁は起こりません。 

 苗字には連濁を起こしているものが数多くあります。高田さんの「たかだ」は連濁が起こっており、「たかた」は起こっていないわけです。苗字の連濁は東日本でよく起こります。西日本の山崎さんの多くは「やまさき」さんですが、東日本では連濁の「やまざき」さんのほうが多数派になっています。

 あなたの苗字も連濁を起こしていませんか。

 

地名型ではない苗字の由来を探る

 地名型ではない苗字の代表は佐藤さんなどの〇藤姓です。〇藤姓は藤原氏の流れをくむとされ、藤原氏の「藤」と官職の左衛門尉や国名の伊勢国(三重県)などが組み合わさって生まれました。〇藤姓の特徴は原則として音読みだということです。音読みの苗字は、訓読み苗字に比べると、新しく生まれたものと言うことができます。

 苗字の文字をおめでたい文字(佳字)に変えたものもあります。久保さんは窪さんを佳字化したものです。吉田、増田、永田、喜多など佳字が用いられている苗字は大変に数多くあります。

 珍姓や難読姓のなかには、同姓に手紙を送って由来を訊ねたり、墓石や過去帳を調べたりすることによってなぜ誕生したのかがわかるものもあります。そのような調査については家系図作成方法を参考にしてください。



興味深い苗字の由来

 有名人の苗字のなかから、興味深い苗字を取り上げて由来を紹介します。必ずしも珍姓とは限りません。また、由来(語源など)ではなく出自(系図)について解説することもあります。


桃田 ももた・ももだ

 Momota Momoda 地名型

 全国順位 6,219位 全国人数 約1,500人


 バトミントンの桃田賢斗選手の活躍で有名になった苗字ですが、桃田(ももた)選手の出身地は香川県三豊市三野町です。全国に桃田姓はまんべんなく分布していますが、とくに多いのが長崎県と大阪府。長崎県では佐世保市と大村市、平戸市に密集が見られます。大阪では和泉市に多いですね。

 桃田選手の出身地香川県では三野町よりも丸亀市に多いので、桃田選手の家も丸亀市から移転したのかも知れません。

 苗字の由来は地名発祥です。全国にある桃田、あるいは百田という地名から発祥しました。「ももた」の「もも」は植物の桃にちなむ場合もありますが、「もも」地名の多くは崖を意味する大和言葉の「まま」が転訛したものと考えられます。

 日本三大急流として有名な山形県の最上川も語源は「もも(ままの転訛で崖)」の「かみ(上流)」で、これが縮まって「もがみ」になり、最上の文字があてられたと考えられています。「ももた」の「もも」も「もがみ」の「も」も同じ語源ということです。その後の「た」は地名によく使われる場所を示す接尾語です。漢字は田を当てますが、必ずしも水田を意味するものではなく、場所、空間を指示した言葉です。

 桃田地名としては、熊本県玉名市にかつて桃田(ももだ)村があり、現在はそのあたりが桃田運動公園になっています。この地は菊池川沿いにあり、川の流れで川岸が削られた状態も「まま(崖)」と表現されました。

 「もも」には桃や百を当てました。どちらも縁起の良い佳字です。桃の木は中国から渡来した果樹ですが、その果実には魔を祓う霊力が宿っていると信じられてきました。桃太郎が超人的な強さで鬼を退治するのも、桃の霊力のなせるわざです。梅の花の次に咲く桃の花もあでやかで美しい姿です。百も当てましたが、これは数が多いことをあらわした美称です。地名では桃よりも百のほうが多用されました。

 桃田選手の強さの源には、桃の霊力があるのかも知れませんね。


新津 にいつ・にいづ

 Niitsu Niizu 地名型

 全国順位 2,918位 使用人数 約4,600人

 『秒速5センチメートル』や『君の名は。』など名作アニメーションを次々と発表している新海誠監督。新海とは珍しい苗字だな、と思ったらペンネームでした。本名は新津(にいつ)誠さん。実家は長野県南佐久郡小海町で明治から3代続く老舗の建築会社です。なお新津姓は上記以外にも複数の読み方があります。

 小海町の新津家については、『角川姓氏家系歴史人物大辞典』に記載があり、それによると第62代村上天皇(926-67)の流れをくむ村上源氏の子孫とのこと。村上義澄は最初、甲斐国村山(比定地不詳)に住んで村山と名乗り、次いで越後国新津(新潟市秋葉区新津)に移り住んで新津姓に改めました。その後、新津義澄は甲斐(山梨県)の戦国大名武田信玄に仕えました。

 この記述で疑問を感じるのは、出自が村上源氏だということです。村上源氏からは赤松氏のような名族が出てはいますが、その本拠地は西国であり、信濃国(長野県)に拠点があったという話を知りません。村上という苗字から村上源氏を連想したものではないでしょうか。北信の村上氏として有名な村上義清は第56代清和天皇(850-81)の流れをくむ清和源氏の子孫です。また越後の新津から出た新津氏も最初の氏族は第50代桓武天皇(737-806)の流れをくむ桓武平氏ですが、その滅亡後に出たのは清和源氏の系統です。村上・新津どちらも清和源氏とゆかりが深いことから、小海町の新津氏も実は清和源氏の出身ではないかと思われます。

 いずれにしても武田信玄に仕えていた新津義澄は天正10年(1582)、武田氏が織田信長によって滅ぼされると、武士の身分を捨てて隠棲し、現在の小海町で修験者となり、大宝院と号しました。以後、江戸時代(1603-1867)を通じて子孫は山伏として続きました。

 もう一つ、小海町には別系統の新津氏がいます。こちらは京の藤原一門の公家二条中納言守長(阿達太郎ともいう)の末裔と言い、守長が信濃国貫井(比定地不詳)に流れさてきて、小海町の新津氏と関りをもって新津姓を名乗るようになったと言われています。

 この系統は二条と言う先祖の称号が史実であれば第38代天智天皇の重臣藤原鎌足(614-69)の流れをくむ藤原系公家の名門に連なる家柄ということになりますが、二条中納言が別名を阿達太郎と名乗っていたという伝承が気になります。通常、位の高い公家はこのような武士のような氏名は称しませんから、あるいは藤原系の公家の流れを引く武士の阿達太郎守長が信濃に移り住んだという話が変化したのかも知れません。

 いずれにしても、この小海町にいる二系統の新津氏は前者が武田信玄の家来、後者は京の公家の子孫で、どちらも歴史ロマンを感じる家系です。新海監督のご実家は、このうちどちらかの系統ではないでしょうか。

 最後に、新津という地名の語源ですが、これは文字通り「新しく開かれた港(津)」のことです。



珍姓の由来

 苗字には、数の多い大姓もあれば、ほとんど見かけない珍しい苗字もあります。そういう珍しい苗字のことを珍姓といいます。では、珍姓といわれる苗字の由来をいくつか読み解いてみましょう。


本庶 ほんじょ

 Honjo 仏教型

 全国順位 57,432位 全国人数 約30人


 京都大学名誉教授の生化学者で、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶(ほんじょ)佑さんによって有名になった苗字です。

 本庶佑さんのルーツは富山市。同市中老田にある浄土真宗本願寺派の本庄山専称寺のご住職が本家とのこと。同寺は第71代後三条天皇(1032-73)の第三皇子園宮(皇室系図に見える輔仁親王ののことか)に従って越中(富山県)へ下向した藤原五郎丸が開基したお寺といわれています。

 この藤原五郎丸という人物については詳細が不明ですが、奇しくも滋賀県犬上郡甲良町大字下之郷ににある浄土真宗本願寺派の西応寺にも同じような伝承があり、平安末期に琵琶湖西岸の志賀郡に住んでいた藤原五郎丸という人が出家し、心覚大僧正と号して西応寺を開基したというのです。さらに心覚大僧正にこだわると、同時代の真言宗の高僧に心覚という人物がいますが、その父親は藤原姓ではなく平実親とされています。

 藤原五郎丸の素性については、このあたりで藪の中になりますが、いずれにしてもこの人物が専称寺を興し、当初は浄土真宗のお寺ではありませんでしたが、文明4年(1472)に本願寺8世蓮如が越前国吉崎御坊(福井県あわら市吉崎)に滞在して布教に努められたとき、感じるところがあって浄土真宗に改宗しました。そして天正元年(1573)になって現在の中老田の地に移ったとされています。

 山号の本庄山はこのお寺のある地が周辺村落の中心地だったことに由来していると思われ、ご住職は明治になって苗字を付けなければならなくなったとき、山号の本庄を本庶と改めて苗字にしたようです。文字を変えたのは山号をそのまま使うことを憚ったためでしょうが、「庶」文字を選んだ理由は何でしょう。浄土真宗は身分の上下に関わらず、広く「庶」民を極楽浄土へ導くことにちなんだものでしょうか。あるいは「庄」と「庶」は同じまだれで似ているだけではなく、「庶」という漢字には何かを強く願うという意味があるからかも知れません。

 本庶さんはスピーチで「決して諦めないこと」を強調されていましたが、その諦めない心は、庶の「強く願う」という意味に通じるところがあります。本庶さんの諦めない心は庶に源があるのかも知れません。


松雪 まつゆき

 Matsuyuki  地名型

 全国順位 9,370位 全国人数 約810人


 女優の松雪泰子さんで有名になった松雪姓。彼女は佐賀県鳥栖市出身で、同市酒井東町周辺に密集しています。

 松雪という言葉は、真冬、雪に埋もれながらも緑を絶やさない松が生命力の強さを象徴し、絵的にも縁起が良く風流であることから、一芸に秀でた人の斎号や雅号、僧侶の出家号、寺院名などに利用されてきました。足利将軍の同朋衆である絵師の相阿弥は松雪斎鑑岳と号し、山梨県大月市大月2丁目にある浄土宗無辺寺は僧侶の行蓮社吟松雪が開山したといわれています。同県甲府市にはかつて臨済宗の松雪寺(現在は廃絶)もありました。

 このうよに松雪という言葉は各方面で使われていますが、鳥栖市に多い松雪姓は地名から発祥したものでしょう。本来は「まちゆる」の意で、「まち」は人々が集まって住む集落、町のことです。これが変化して佳字(おめでたい文字)の「松」になったのでしょう。全国の松地名のなかには「まち」から転訛(てんか)したものが、かなりあると思われます。

 「ゆき」は空から降って来る雪ではなく、川などで土砂が揺り上げられることを意味する「淘 (ゆる)」か、土砂がゆるんで崩れやすくなっている「弛(ゆる)」が「ゆき」に変化したものでしょう。その「ゆき」に雪の漢字を当てたものと思われます。

 鳥栖市で松雪姓が多い酒井東のあたりは、筑後川の水害にたびたび見舞われ、堤が崩れやすく、押し流された土砂が堆積する場所でしたから、まさに「まつゆき」の地でした。


永作 ながさく

 Nagasaku 地名型

 全国順位 6,698位 全国人数 約1,400人


 女優の永作博美さんで有名な苗字です。彼女は茨城県行方麻生の出身。麻生は江戸時代に麻生藩新庄氏の陣屋が置かれていた町ですが、永作姓の方が多く住んでいます。苗字の由来は地名型で、福島県二本松市上川崎には永作という地名があります。語源は二つの説が考えられ、一つは山間地や窪地のことを「さく」ということから、そういう地形が長く延びている場所のことを「ながさく」といい、これに永作という文字を当てたという解釈。もう一つは永作手(ながつくて)に由来する説。永作手とは、中世に使われた言葉で、農民が先祖代々所有権を持っていた田地のことをいいました。農民にとっては縁起の良い言葉でしたから、自分の持っていた土地を「永作手」と呼んでいたものが、いつしか語尾が欠落して「永作」となり、それが地名化したものかも知れません。


赤祖父 あかそふ・あかそぶ 

 Akasofu・Akasobu 地名型

 全国順位 18,055位  全国人数 約270人

 

 アカとは赤い色。ソフとは渋いこと。富山県高岡市赤祖父は土に赤い鉄さびが含まれていることにちなんでいます。


朝妻 あさつま・あさづま 

 Asatsuma・Asazuma  地名型

 全国順位 5,197位  全国人数 約2,000人

 

 地名は滋賀県米原市朝妻筑摩、兵庫県加西市朝妻町、 奈良県御所市朝妻などがあり、苗字は新潟県新潟市西区に密集が見られます。語源は①「麻(あさ)つ間」で、麻を栽培して麻織をしていた所、②浅(あさ)には低いという意味もあるので、低い山や台地。間(ま)は接尾語で土地、などが考えられます。奈良県の朝妻地名から朝妻造(あさづまのみやつこ)が発生し、滋賀県米原市の朝妻地名はこの朝妻造が移住したことによって名付けられたといわれています。兵庫県の朝妻には第24代仁賢天皇の第二皇女朝嬬皇女(あさづまのひめみこ)が住んでいたとも、その墳墓があるという説が残っています。


生稲 いくいな・いくいね 

 Ikuina Ikuine 地名・物象・事象型

 全国順位 7,608位 全国人数 約1,100人

 

 タレントの生稲晃子さんで有名な苗字ですね。彼女は東京都の出身ですが、生稲姓は千葉県南部の南房総市と館山市に密集しています。

 この苗字は地名発祥で、語源は①刈り取ったばかり稲、②船底が平らな小船。徳島県の方言でこのような舟を「いくいな」といいました。収穫した稲を運搬したことにちなんでいるのかも知れません、③徳島県勝浦郡勝浦町 沼江田中71に生夷(いくい)神社があり、その神社名の元になった生夷庄は「いくいな」と読みました。生夷神社では事代主命(ことしろぬしのみこと)を祀(まつ)っていますが、この神様は夷神ともされ、「いくいな」とは「いくひな」の転で、夷神の生まれたところという解釈も成り立ちます。


一番合戦 いちまかせ・いちまがせ 

 Ichimakase・Ichimagase 当て字型

 全国順位 56,122位  全国人数 約30人

 

 苗字は佐賀県と兵庫県にあります。一番合戦という苗字の発祥地は佐賀県神埼市脊振町服巻一番ヶ瀬(いちばんかせ)といわれています。この地は一番合戦とも書き、『脊振村誌』によれば、九州に下向した後鳥羽上皇がこの地で35日間も賊に襲撃されたとき、その一番合戦が起こった地であったことから、一番合戦と書いたとあります。とはいえこれは後世の付会です。本来の語源は一曲瀬(いちまがせ)で川の浅瀬が曲がっているところのこと。その一曲瀬に武士が好む一番合戦という漢字を当てたものです。



難読姓の由来

 広義では珍しい苗字、数の少ない苗字、読み方の難しい苗字をすべてまとめて珍姓といいますが、難読姓という言い方もします。これは珍姓のうち、とくに文字通りに読めない苗字のことを指します。では、難読姓の由来も読み解いてみましょう。


四十九院 つるしいん 

 Tsurushiin 地名・物象・当て字型

 全国順位 45,262位  全国人数 約50人

 

 苗字は宮城県・北海道・千葉県 ・茨城県などにごくわずかに存在します。地名は石川県加賀市山中温泉四十九院町、滋賀県犬上郡豊郷町大字四十九院とともに「しじゅうくいん」と読ませています。どちらも東大寺の大仏造立に尽力した行基(668-749)の機内四十九院建立にあやかって四十九院村と称したという伝承を持っています。ただし福島県伊達市保原町柱田の四十九院は「つるしいん」と読むことから、この地が苗字「つるしいん」の発祥地と推定されます。同地には飴買い幽霊の伝説が残っています。

 その昔、毎晩飴を買いに来る女性がいました。夜ごとの事なので不思議に思った主人が後をつけると、女性は柱田にある領主遠藤氏の妻の墓の前で消えました。この墓には身ごもったまま亡くなった女性が葬られていたのです。主人が墓の前に立つと地中から赤ちゃんの泣き声が聞こえます。あわてて掘り起こすと、墓の中で飴をなめている赤ちゃんがいました。この日はちょうど女性が亡くなってから四十九日でした。女性は幽霊となって飴を買い、赤ちゃんに与えて命をつないでいたのです。

 この赤ちゃんは立派な若武者に成長して伊達氏に仕えました。そして殿様はこの話を聞いて、苗字を遠藤から四十九院(つるしいん)に改めるように命じました。これが柱田に残る四十九院姓誕生の物語です。

 しかし、この話だけではなぜ四十九と書いて、「つるし」と読むのかが分かりません。その謎については、次のような解釈があります。すなわち四十九日は七×七。並べることを「つる」ということから、七七は「つる七(し)」です。これで四十九を「つるし」と読む理由が理解できす。そして四十九院とは、亡くなった人の生魂が死霊になるまでの四十九日間、その魂をなぐさめる場所のことだというのです。興味深い解釈です。


 ここで紹介した四十九院は本当に難読の苗字ですが、実は我々のまわりのよく見かける苗字のなかにも国語的には難読のものが結構多いのです。たとえば服部さん。「はっとり」と読むことを知っているので読めますが、知らない外国人が漢字だけで読むと「ふくべ」となります。どう考えても「はっとり」という読みは思い浮かばないでしょう。この苗字は古代の機織り集団である服織部(はとりべ)に由来しています。その服織部の織が除かれて服部となり、読みも「はっとり」へと変化を遂げたのです。ほかにも日下(くさか)さんや春日(かすが)さんも文字通りであれば「ひした」「はるひ」となります。これは「日の下(もと)の草処(くさか)」、「春の日の霞処(かすが)」の漢字と読みを枕言葉風に合体させて生まれました。

 あらためて知り合いの苗字を思い浮かべると、漢字通りに読めないものがあると思いますよ。