ネットで読める苗字辞典

2020年09月20日

 明治3(1870)年9月19日、太政官より「自今平民苗字差許候事(いまより平民苗字差し許され候事)」という布告が出たされたことから、9月19日は 「苗字の日」とされています。

 現在の研究では、これ以前から平民の大多数は苗字を持っていたことが確認されています。ただその苗字を公式の場(宗門人別改帳、五人組帳など)では使わず、寺社を参詣した時の記帳や手紙の署名など、私的な場に限って使っていたことが分かっています。

 平民の苗字の遡源がどこにあるのかは意見の分かれるところですが、苗字そのものは遠く平安時代の後期に登場しました。初めは公家が使い始め、次いで武士が使用して爆発的に広がったのです。


 日本には四大姓という貴種思想があり、自らのルーツを源氏、平氏、藤原氏、橘氏につなげる系図上の操作が続けられてきたため、どこまで信ぴょう性があるかは難しい問題ではありますが、室町時代に作られた『尊卑分脈』のような系図集を見ると、四大姓から多くの苗字が枝分かれしたことがよく分かります。

 ご自分の苗字がいつごろ歴史上に登場したのかを知ることは、家の歴史と日本の歴史を重ねることであり、日本の歴史という大河の中を流れてきた自分の家を知ることです。


 ご自分の苗字の歴史について知りたい方は、国立国会図書館デジタルコレクションで姓氏辞典を見られることをお勧めします。いずれも戦前に執筆されたものですが、今でも古典的な名著として高く評価されています。

 要点のみを簡潔に述べた辞典としては、大正14(1925)に『日本紋章学』で学士院恩賜賞を受賞した沼田頼輔博士がまとめた『姓氏明鑑』(大正元年)があります。姓氏を皇別・神別・蕃別に分類しているのは、古代に編さんされた豪族の出自辞典『新撰姓氏録』にならったものです。

 ご自分の苗字を探す時は巻末に画数索引がありますので、まずはそこを見て下さい。


 次は山梨県の姓氏研究家だった佐野重直が明治38(1905)に上梓した『新撰姓号類纂. 初編』を紹介します。この本は多くの系図や文献から苗字の発祥記事を抜き出し、まとめたものです。原典にさかのぼれるよう記事の出典を必ず明記しています。

 

 最後は太田亮博士の大著二冊です。太田博士は戦前に系譜学の確立を唱え、系譜学会を設立。大正9(1920)年にはそれまでに集めた記録類を整理して『姓氏家系辞書』をまとめ、昭和13(1938)には系譜学研究上、不朽の名著とされる『姓氏家系大辞典』を世に出しました。
 この両辞典は日本人の苗字の発祥由来、歴史来歴を知るには最適の本です。歴史的仮名遣い、旧字体で書かれているため、最初は敷居が高く感じられるでしょうが、系譜学の独特な専門用語なども理解できるようになると、これほど面白い本はありません。ぜひ、ご自分の苗字の箇所だけでも見てみてください。


 最初は、

「清和源氏義光流武田氏族...」

 何のことかさっぱり分からない、と思われるでしょうが、不明な言葉はネットなどで調べながら解読していくと、そこには壮大なスケールの日本人の系図という世界が広がっています。


 『姓氏家系大辞典』は原稿用紙に換算すると約7万枚。太田先生はこれをただ一人で書き上げました。収録された苗字の数は約5万種類にのぼります。個人で編さんした辞典としては、稀有の大著といわれています。