いえのよを型の女性名前

2020年11月11日


 江戸時代後期、女性の名前に変化が起こりました。 

 それまでは「きよ」「たき」のような二音節の名前が主流でしたが、二音節の後ろに接尾語の「い」「え(ゑ)」「の」「よ」「を」を付けた名前が地域限定で流行り出したのです。 

 この「〇〇い」「〇〇え(ゑ)」「〇〇の」「〇〇よ」「〇〇を」という名前は当初、山形・岐阜・福井・和歌山・奈良・岡山・愛媛・宮崎県にほぼ限定して使われましたが、明治時代になると一気に全国へと広がりました。 

 なぜ、これらの地域で同時多発的に生まれたのかはよく分かっていません。これを最初に発表した女性名研究家の角田文衛氏は「いえのよを型」の女性名について次のように言っています。出羽、越前、紀伊など遠くへだたった地域に、おそらく無関係に成立した三音節三文字の名の成立理由については明白ではない。しかし明治から昭和前半にかけて大いに繁延しただけに、その成立事情は今後大いに考究されねばならぬ、と。

  

 江戸時代の庶民女性の名前の特徴をまとめると次のようなことが言えます。


1、全国共通の名前が多い。 

 宗門人別改帳を調べると北は蝦夷地から南は九州まで、共通した名前が数多く見られます。当時すでに定型化した名前があったことが分かります。


2、ほとんどは2音節の名前である。 

 圧倒的に多いのは「かね」「たけ」「のぶ」「みき」など、語調の良い2音節の名前です。ひらがなで書かれるのが一般的でしたが、一字のみ漢字で書く混合型(志つ、そ免など)、漢字一字で書く二音節一文字型(松、竹、亀など)、拗音を入れた二音節三文字型(きやう、しゅんなど)もありました。


3、地域限定ではあるが変化に富む名前も用いられた。 

 前述した「いえのよを」型のような、後の時代によく用いられる名前を先取して使用していた地域も現れました。「いえのよを」型がなぜ、どのような理由で登場したのかは、今後の研究課題です。 


 江戸時代後期の女性名の中には、突如現れ、ほとんどが明治に引き継がれることなく消滅した名前たちもあります。現代で言うキラキラネームのような存在でしょうか。


  きら くせ そそ たら ちげ つみ つめ とろ なな のろ ばか ひる ぼん まて みる めす やん よよ りす れを ゐろ


 わずか数文字の名前ではありますが、そこから歴史や時代が垣間見えることもあります。興味は尽きることがありません