登場が待たれるオンリーワン的存在の系図学者兼弁護士

 現在の欧米の系図学(Genealogy)は、司法手続や歴史的事実の解明を支える高度な専門職へと進化しており、その最前線には法曹資格を持つ系図学者が数多く立っている。

 アメリカのジュディ・G・ラッセル(Judy G. Russell) は、連邦検察官などを経て認定系図学者(CG)となり、「当時の法律を知らなければ古い記録は正しく読めない」ことを系図研究者や先祖を調べる愛好者に説き続けている。約35年間税務弁護士を務めたラブレンダ・ギャレット=ネルソン((LaBrenda Garrett-Nelson))は、財産目録や譲渡証書に埋もれた奴隷制下のアフリカ系アメリカ人家族を復元し、系図学界の頂点ともいえる系図学者認定委員会(BCG)の会長も務めた。

 彼らが系図学の世界で大いに活躍している理由は明快である。記録は作成当時の法制度に基づいて生まれるため、その法を理解する者は記録の「存在」だけでなく「空白」の意味まで読めるからだ。そして、系図学の証明基準(Genealogical Proof Standard)が求める、証拠を比較し矛盾を解消して結論を論証する作業は、弁護士が日々行う事実認定そのものだからである。

 日本では、家系図作成は行政書士、相続登記は司法書士の領域と見られがちで、系図学に精通した弁護士はみあたらない。だからこそ、この分野に踏み込む弁護士は、他に代わる者のいない「オンリーワン」になれるはずである。


弁護士だけが持つ三つの優位性

 系図学の世界で、弁護士だけが持つ三つの優位性がある。第一は資料へのアクセスである。他人の戸籍や住民票は誰でも取得できるわけではないが、弁護士は受任事件について職務上請求で取得でき、弁護士会照会も利用できる。ただし、これは司法書士や行政書士も同様である。

 第二は解決までの一貫性である。調査で判明した相続人との交渉、遺産分割、家庭裁判所への申立て、訴訟まで、弁護士は一人で担える。弁護士資格を持たない法務系図学者では、調査結果を法的解決へは結び付けられない。

 第三は調査設計力である。「この法律問題を解くには、誰と誰の関係を、どの水準の証拠で確定すべきか」を最初から判断できるため、調査が無駄なく、しかも見落としがない。

 これらの優位性が最も大きな価値を生むのが、次の四つの分野である。

長期未登記の数次相続

 祖父や曾祖父の名義のまま放置された土地では、相続が何度も重なり、相続人が数十人に及ぶことも珍しくない。2024年4月に始まった相続登記の義務化は施行前に開始した相続にも及び、原則として2027年3月31日までの申請が求められる。今後、「何代も前の名義をどう整理するか」という相談は確実に増える。

 ここで系図学の力が生きる。まず、明治・大正・昭和初期の手書き戸籍を正確に読み解き、転籍、分家、養子縁組を追って人物の連続性を確認する作業がある。同姓同名や改名があれば、生年、本籍、婚姻、子の名前などを照合して同一人かを論証する。

 さらに重要なのが旧民法の理解である。相続開始が1947年5月2日以前であれば、原則として旧民法が適用され、戸主の死亡や隠居による家督相続では家督相続人一人が財産を承継する。この時点を正確に見極めれば、相続人の範囲が大幅に絞られることもある。反対に、この判断を誤れば、不要な相続人に連絡を取ったり、本来の権利者を漏らしたりしてしまう。法制史と系図学の両方を理解する弁護士は、何世代にもわたる権利の流れを一枚の構造として示し、全員参加が必要な遺産分割協議を確実な基礎の上で進められる。

所有者不明土地の解消

 所有者不明土地の問題は、公共事業、まちづくり、災害復旧、民間の不動産取引を停滞させている。近年の法改正により、所有者不明土地管理命令、所在等不明共有者の持分取得・譲渡、相続土地国庫帰属制度など、新たな解決手段が整えられた。

 しかし、これらの制度の多くは、所有者や共有者を探索しても見つからないことを前提としている。探索が不十分なまま手続を進めれば、後になって真の権利者が現れるリスクが残る。逆に言えば、「どこまで調べ、なぜ見つからないと言えるのか」を証拠に基づいて説明できる専門家が、手続の信頼性を支えることになる。

 戸籍が戦災や保存期間の経過で失われていても、旧土地台帳、寺院の過去帳、墓碑、村誌などの郷土誌、新聞記事などを照合すれば、途切れた親族関係の糸をつなぎ直せる場合がある。系図学に精通した弁護士は、こうした調査を設計・評価したうえで、管理人選任や持分取得の申立てまで一貫して担当できる。自治体の用地取得、公共事業、地域再生事業からの相談にも応えられる、極めて希少な存在となるだろう。


複雑な相続の問題を解決できる最後の砦的スペシャリスト

 日本の相続調査には、現行法だけでは処理できない歴史的案件もある。法務局の法定相続情報一覧図には、旧民法下における家督相続などを想定した様式まで用意されている。

 つまり、戦前の家族関係や古い相続を扱う場合には、現在の家族観だけではなく、当時の法制度、戸籍制度、家制度、養子制度などを理解しなければならない。多くの弁護士が役所で「戸籍滅失証明書」や「廃棄証明書」が出された時点で追跡不能と判断したり、くずし字の手書きの旧戸籍(明治19年式・31年式等)や変体仮名の解読で膨大な時間を費やしたりしている。

 しかし、系図学のスキルを持つ弁護士は、戸籍が途絶えた場所から旧土地台帳、過去帳、墓碑銘、郷土史料、旧家の古文書などの戸籍外史料へ直接アクセスし、血縁関係を再構築できる。他事務所が「調査不能」として断るような高難度の所有者不明土地案件や数次相続案件を引き受けられるため、強固な専門性(ニッチ・トップ)を確立できることになる。

 まさに複雑な相続の問題を解決できる、「最後の砦」的スペシャリストとして、知られるようになるだろう。


日系移民の子孫が関わる国際相続

 明治以降、多くの日本人がハワイ、北米、ブラジル、ペルーなどへ渡った。故郷の土地の名義を移民本人が持ったまま、現在では相続人が海外に何世代にもわたって暮らしているという案件は各地に眠っている。

 この分野の難しさは、日本の戸籍だけでは子孫を追えない点にある。海外で生まれた子の出生届が日本に出されていなければ、その子は戸籍に載らない。名前はローマ字やポルトガル語名で記録され、表記も揺れる。そこで、日本側では旅券下付の記録や移民関係資料、海外側では出生・婚姻・死亡記録、国勢調査、乗船名簿、教会記録などを照合し、日本の家系と海外の家系を正確に接続する必要がある。

 さらに法的には、相続は原則として被相続人の本国法によるため、準拠法の判断が欠かせない。海外在住の相続人については、在外公館での署名証明や、現地で作成する宣誓供述書など、登記や手続に通用する書類の整備も求められる。

 国際系図調査の技術と、国際私法・相続実務の知識を併せ持つ弁護士は、海外の専門業者に高額で外注するしかなかった案件を、国内で一貫して処理できる。移民の歴史が深い地域の土地問題や、海外の日系社会からの相談窓口として、他に代わりのない役割を果たせる分野である。

 このほかにも活躍の場は数多く考えられる。

相続に強い弁護士からオンリーワン的存在の弁護士へ

 相続を扱う弁護士は多いが、戸籍、旧民法、歴史資料、国際記録、人物同定、証拠評価を統合できる弁護士はほとんどいない。この組み合わせは、短期間では模倣されにくい専門ブランドとなる。

 活躍の幅は実務にとどまらない。ラッセルのように、急増する先祖調査の愛好者に法律的視点からの調査法を教える講師にもなれる。ギャレット=ネルソンのように、法律家としての経験を生かして系図学界の発展に貢献する道もある。

 弁護士が法務系図学者になる最大のメリットは、「法律を適用する前提となる人間関係を、自ら証拠によって解き明かせるようになること」である。長期未登記の数次相続、所有者不明土地、日系移民の国際相続は、いずれも従来「調べきれない」とされてきた領域であり、そこにこそ新しい専門性の価値がある。

 欧米で弁護士出身の系図学者が第一線で活躍しているように、日本でも法律と系図学を兼ね備えた弁護士が現れれば、その人は複雑な親族関係の立証において、まさにオンリーワンの存在となるだろう。

 そのような法務系図学者の弁護士の登場が待たれる。興味のある弁護士の方はこちらから連絡してほしい。日本の系図学発展のためにも協力は惜しまない。札幌近郊の方であれば対面で、遠方であればオンラインで系図学をお教えする準備がある。