体験型と調査型のルーツツーリズムについて

 ルーツツーリズム(系図ツーリズム、先祖ツーリズムとも呼ばれ、呼称は40以上もある)は、先祖がかつて住んでいた場所を訪れ、その土地の歴史や文化を体験することで、自己のアイデンティティと先祖とのつながりを確認する旅のことである。

 この旅には目的や活動内容によって、体験型(観光体験型)と調査型、二つのタイプがある。

  体験型(観光体験型)とは、先祖とゆかりのある土地を訪問し、先祖の暮らしや地域の歴史を追体験することに重点を置いた旅行である。このタイプは気軽に実行することができる。事前の先祖情報は必要最小限で構わない。最寄りの役所で古い除籍を取得し、そこに記載されている本籍地が分かれば、すぐにでも旅立つことができる。

 おもな訪問先と体験は次の通りである。

 1.ゆかりの地を巡る 

 先祖が住んでいた地域を散策する。体験型の事前情報では戸籍の古い番地を現在地に置き直すことは困難である。そのため先祖の居宅跡をピンポイントに訪れるのではなく、地域を散策するということになる。また、地域の住民がよく使っているお寺や氏神として崇敬していた神社などを訪問する。こちらも住職や神職と対面することを目的とせず、神社を参拝し、お寺も立ち入りが許可されれば墓地などを見ることを目的とする。

 2.五感でルーツの地を体験する

 先祖が日常的に使っていた方言を聞いたり話したりする。その土地特有の郷土料理や特産物を味わう。先祖も見ていたであろう山や川などの自然風景を体感する。城跡があって、安全に登れるのであれば、本丸跡に行ってみる。

 3.伝統や行事への参加

 先祖が参加していたであろう地域の祭りを見学・体験したり、伝統芸能や工芸に触れたりする。郷土資料館や博物館があれば、来館して展示物を鑑賞する。

 4.地域住民との交流

 公民館などで地元の古老から昔の話を聞いたり、自分のルーツについて話したりすることで、地域住民との結びつきを深める。食堂で食事するとき、店員さんと雑談するなど、地元の方々に積極的に話しかけ、自分がルーツツーリストであることを伝えてみることである。相手が関心を持ってくれれば、近所を案内してくれるかも知れないし、遠い親戚宅を教えてくれるかも知れないからだ。

 ルーツツーリストは先祖ゆかりの地に立つことによって、単なるレジャーとしての観光を超えて、「血が騒ぐ」ような感覚を抱くことになる。それは心の安らぎとなり、アイデンティティにも深い影響を与えることになる。このような効果は、心理学的には、個人の精神的な強さ(レジリエンス)を高めたり、世代間のトラウマを癒やしたりする効果があるとされている。

 調査型とは、先祖に関する具体的な記録や資料を探し、収集することを旅の目的としたものである。家系図をより正確なものにしたり、知られていなかった先祖の経歴を明らかにするなど、系図愛好者がこれまで行ってきた現地調査としての側面が強い。

 おもな活動内容は次の通りである。

 1.公的機関を訪問して情報を収集する 

 法務局で本籍地の旧土地台帳と和紙公図を閲覧して先祖の所有地を確認する。図書館や資料館で郷土資料や市町村史を調べる。公文書館や博物館で古い記録を調査するなど、おもに紙に記された文字情報を収集する活動である。

 2.寺院や神社、学校の記録確認

 菩提寺と思われる寺を訪問し、住職に過去帳の情報を提供してもらえないかと頼む。墓所で先祖の墓を探す。同姓の墓に刻まれている人名や家紋を確認する。氏神の神社を訪ね、神職に寄進帳や氏子帳面に先祖の名前がないかを調べてもらう。先祖が通っていたと思われる学校で学籍簿や卒業生台帳を確認する。いずれも事前に手紙やメールで連絡しておく必要がある。過去帳の情報はプライバシーの問題で教えてもらえないことも多い。突然訪問して教えてほしいと頼んでも、断られると思った方がいい。過去帳から特定の埋葬者の情報を抽出するのは大変な作業である。それを見知らぬ人が突然やってきて申し出ても応じてもらえないのは当然であろう。事前に手紙などで「なぜ教えてもらいたいのか」について、住職に納得してもらうことが大切である。

 3.本家を訪問する

 事前に同姓アンケートを実施して遠い親戚や本家を発見しておきたい。ルーツツーリズムではそのような家を訪問して古老から先祖の話を聞き、仏壇の過去帳や位牌を見せてもらう。墓所に案内してもらう。時には菩提寺の住職との間を取り持ってくれることもある。文献や文書から先祖を調べるには限界があり、経歴的な情報ばかりが集まる傾向がある。たいして聞き取り調査では先祖の性格や考え方、知らなかった伝承などを知ることができるため、極めて有益である。

 4.専門家の話を聞く

 郷土資料館や歴史博物館の学芸員なかには、地元の歴史や古文書に精通している人がいる。そのような人から郷土の歴史を教えてもらうことは、その地で暮らしていた先祖の生活を想像するうえで大変役に立つ。先祖に関する直接的な記録や情報を提供してもらえることもあるだろう。かつて自治体史を編纂した際の委員が存命しているのであれば、その人の話も聞きたい。そのような人物の所在は地元の教育委員会に問い合わせれば、教えてもらえることもある。

 調査型の訪問は、家族史の本や詳細な家系図を作成するための、客観的で裏付けのある情報を得ることを目的としている。ルーツツーリズムを通じて、戸籍の情報だけでは分からなかった家族の真の物語が、具体的な形となってみえてくるだろう。

 初心者はまずは体験型をおもいっきり楽しみ、次のステップとして調査型を実施するとよいだろう。

 ルーツツーリズムは通常の観光地ではない場所を訪れることが多く、滞在期間も長くなる傾向がある。それまで観光と縁のなかった地方の小さな集落にとっては、持続可能な新たな観光資源として大きな可能性を秘めている。地方の役所には、ぜひとも積極的なルーツツーリストの誘致や情報発信をお願いしたい。そのとき、個人の先祖調査を助けたり、代行するような必要は全くない。人手不足の役所にとって個人的な調査に協力するのは大きな負担になるだろう。そうではなく、あくまでも地元ゆかりの人々を広く全世界から呼び戻し、再びつながりの絆を結ぶ橋渡しをお願いしたい。地元の人々がルーツツーリストを「おかえりなさい」と出迎えてくれるような体制を整えてくれれば、ルーツツーリズムに出かけたいという人は確実に増えるだろう。

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