通称型人名によく使われる文字一覧
江戸時代の古文書や古い戸籍を読むとき、一番解読者を悩ませるのは固有名詞と言われています。通常、くずし字は文の流れで内容を類推し、そこに当てはまる文字の候補を絞り込みながら読むようにと習いますが、人名のような固有名詞にはその方法が使えず、前後の文からヒントを得ることができません。そのため解読者泣かせといわれ、古文書に熟練している人でも不明の部分だけを抜き出して解読してほしいと言われると、誤読する懸念をいだきます。そのリスクを減らすには、江戸時代から明治時代の男性人名によく使われていた文字を知ることが役立ちます。
江戸から明治期の人名には何左衛門や何之助のような通称型人名と隆盛や利通のような実名(諱)型人名があります。江戸時代の文書にはほとんどが通称型で署名され、分限帳のような武士の名簿も通称型で記載されます。近代最初の戸籍である壬申戸籍(明治5年)にも通称型を登録した人が大多数を占めていました。
通称型の2文字以降は定型の形があるため、最初の1文字目さえ解読できれば、あとはほぼ正確に読めます。
文字の形だけを見て判断するよりも、当時の人名によく使われていた文字を知ったうえで解読するほうが、誤読の確率は間違いなく低下します。
たとえば現在の人名のよく使われている「翔」のような文字は、当時の通称型人名には99%使われることはありません。それを知っていれば、たとえ文字が翔によく似ていたとしても、翔をためらいなく候補から外すことができるようになります。そのうえで、下記の一覧表から似た文字を探したほうが正解にたどり着く可能性は確実に高まるでしょう。
この一覧の文字がよく使われたのは江戸時代から明治10年代に生まれた男性までです。それ以降は人名に使われる文字の種類が急速に増えたため、この一覧以外の文字も頻繁に使用されるようになりました。しかし、そうなってからでも明治末期までは、この一覧の文字が多用されていたと考えてよいでしょう。
通称型人名の1文字目によく使われる文字の一覧
2文字のものも一部含みます。文字の後ろの()内カタカナは別の読み方、文字は旧字体・異体字です。
(い)伊・亥・猪・伊勢・磯・一・一郎・市・市郎・岩(磐)
(う)宇・右・馬
(え)栄(榮)・円(圓)
(お)奥・乙
(か)加・勘・角・亀(龜)・兼
(き)喜・喜代・喜平・義・儀・吉・菊・金・久
(く)九(キ)・九郎・熊・粂(久米)・倉・蔵(藏)
(け)啓・慶・源・源五・元
(こ)小・五・五郎・五次・権(權)・幸
(さ)左・佐・佐次・佐五・才・三・三郎・作・定
(し)四・四郎・七・七郎・十・十郎・重・重郎・治・治郎・所・丈・章・甚・庄・荘・次・次郎・二・二郎・新
(す)助・介
(せ)瀬・清・善・誠・千・仙
(そ)宗・惣・総・園
(た)太・太郎・大・団(團)・多(夛)・辰・民・丹
(ち)忠・長・仲(チュウ)・千代
(つ)常
(て)鉄(鐵)・伝(傳)
(と)藤・徳(德)・歳・富(冨)・友・寅(虎・乕)
(な)直
(に)仁(ジン)
(ね)子
(は)八・八郎・初・半・繁(シゲ)・伴
(ひ)彦
(ふ)武(タケ)・福・冬・文
(へ)平・兵・弁(辨)
(ほ)穂
(ま)牧・孫・又・政(セイ)・増・益・升・万(萬)・松(柗・枩)
(み)巳
(も)茂・茂次・杢・門
(や)安・保・弥(彌)・弥惣・弥次・弥三・弥五・八十
(ゆ)祐
(よ)与(與)・与次・要・由・美(ビ)・米
(り)利(トシ)・里・竜(龍)・良・林
(ろ)六・六郎
2文字目以降の通称型人名の定型
〇の部分に上記の文字がよく使われています。
〇左衛門・〇〇左衛門・〇右衛門・〇〇右衛門・〇衛門・〇〇衛門・〇兵衛・〇〇兵衛・〇郎・〇〇郎・〇蔵・〇〇蔵・〇造・〇〇造・〇助・〇之助・〇介・〇之介・〇一・〇市・〇二・〇次・〇〇次・〇治・〇〇治・〇郎治・〇三・〇五・〇吾・〇六・〇七・〇八・〇平治・〇平次・〇平・〇市・〇平太・〇松(枩・柗)・〇〇松(枩・柗)・〇楠・〇槌・〇太夫(大夫)・〇〇太夫(大夫)・〇作・〇之丞(焏・烝)・〇内・〇吉・〇之吉