田中さんの苗字ツーリズム

2018年12月04日

 次回の道新講座は12月18日。


 田中さんは全国苗字ランキングの第3位で、約134万人いる。田中とは、農地のことで、とくに水田を指す場合が多い。我が国の稲作は西から広まったから、現在でも田中さんは奈良県以西の西日本に多いわけだ。地名も非常に多く、それらの田中という地名から田中さんが生まれたわけだ。

 田中の語源は、文字通り田んぼの真ん中ということ。接尾語の「た」は必ずしも水田だけではなく、農地全般に使われた言葉だが、いずれにしても田が増えると、家から通うのが大変になる。そこで田んぼの中に家を建てる田居(田井)が始まり、田居のまわりに次々と新しい田ができると、田居はいつしか田んぼの中心となって田中と呼ばれるようになった。これが田中という言葉の由来である。我が国は農耕国家だから田が多い。それゆえに田中地名も多く、田中さんも多いというわけである。


 田中さんの苗字ツーリズムではどこを訪ねたらいいだろうか。田中さんは全国の田中地名から発祥しているが、とくに古いのは大和国高市郡田中村(奈良県橿原市田中町)である。この地には第34代舒明(じょめい)天皇(593-641)が、飛鳥岡本宮(あすかおかもとのみや。奈良県明日香村)の焼失後、厩坂宮(うまやさかのみや。橿原市大軽町付近 )に遷るまでの間、仮宮として暮らした田中宮(たなかのみや)があったと考えられている。そして天皇が去ると、田中宮の跡地には物部氏の流れをくむ田中氏の氏寺・田中寺が建立された。この寺も後には廃寺となったが、近年の発掘調査によって、田中廃寺は田中町の弁天の森(べんてんのもり)の付近にあったことが判明している。この地こそは古代田中氏の聖地である。



 次は近江国高島郡田中郷の田中神社。この神社は現在の滋賀県高島市安曇川町田中に鎮座し、9世紀には創祀され、素戔嗚尊(すさのやのみこと)らを祀っている。この神社のある田中の地からは中世、第59代宇多天皇(867-931)の流れをくむ宇多源氏佐々木氏族の子孫という田中氏、第40代天武天皇の流れをくむ高階(たかしな)氏の末裔という田中氏、第30代敏達天皇(538-85)の流れをくむ橘氏の後胤という田中氏などが出ているが、とくに有名なのは田中吉政である。

 吉政は豊臣秀吉に仕えて頭角をあらわし、三河国岡崎(愛知県岡崎市)10万石の大名に取り立てられ、慶長5年(1600)に起きた関ケ原合戦では東軍徳川方に参加。勝利の後、伊吹山に隠れていた石田三成を捕える大手柄を立てて家康に褒められ、筑後国柳川(福岡県柳川市)32万5000石の大大名となったが、残念なことに孫の代で男子が生まれず、断絶となった。


 最後は京都市左京区田中西樋ノ口町1にある田中神社。この神社も由緒が大変に古く、全国の田中さんの氏神ともいわれている。あちこちに孔雀が飾られ、面白い卵型のおみくじを売っている。これは「くじゃくみくじ」といい、全国でもこの神社にしかないといわれる珍品。ぜひ参拝した時には引いてみたいものだ。