女紋について

2019年11月13日


 女紋というのは、嫁いだ女性が実家の家紋を使う慣習です。江戸時代からある伝統で、現在でも西日本を中心に続いています。女紋の決め方には何通りかあります。


1、母親、祖母、曾祖母と母系の家紋を受け継ぐタイプ。
2、父系(父親)の家紋を使うタイプ。
3、父系と母系のうち、より優美で、女性的な家紋(多くは植物紋か蝶などの雅な文様)を選択して使うタイプ。
4、家に固有の女紋があり、嫁いで来た花嫁にはその家紋を使わせるタイプ。


 北海道には女紋の伝統がありません。そのため結婚した女性が紋付を新調するときは、夫の家の家紋を使います。その結果、冠婚葬祭で夫婦が並ぶと、同じ家紋の着物を着ています。女紋の習慣のある地域の人がこれを見ると、同じ家紋の家同士が結婚したんだな、と勘違いします。
 一方、女紋のことを知らない人が女紋を使っている夫婦の着物をみると、なぜ夫婦で違う家紋の着物を着ているのだろう? もしかすると不仲なのでは、などと見当違いなことを勘ぐったりします。


 江戸時代の墓を見ると、女性の名前の上に生家の苗字が彫られたものを見かけます。これも夫婦別姓の伝統を知らないと、女性は旧姓を名乗っているので、本妻ではなく妾だったのでは、と勘違いする人がいます。
 江戸時代の記録を読んでみると、結婚後も生家の親からお小遣いをもらい、死後は実家の菩提寺に埋葬された女性も少なくはないのです。これを歴史的には半檀家制(複檀家制)といいますが、この伝統を知らないと離縁して出戻ったのだろうと思ってしまいます。


 先祖調査が学問として確立されていないということは、体系だった知識の集積がまだ行われていないということであり、先行研究による知識の層が非常に浅いことを示しています。これを補うためには、すでに成熟している歴史人口学や民俗学、歴史学(日本近世史・地方史学)などの関係する分野の知識を積極的に取り入れて補う必要があります。
 それを怠ると、せっかく発見した記録を正しく分析することができず、誤解したまま系図を作ることになります。これは家系図を作るうえで、一番注意しなければならないことです。
 また、関連する知識が無いと、折角発見した事実を基に当時の生活を想像する力も発揮されません。この想像力が身につかない限り、ご先祖はいつまでたっても紙の上に書かれた単なる記号でしかなく、自らの人生を語ってくれる存在にはならないのです。


 戸籍・除籍を揃えて系図を作ってしまうと、先祖調査が急につまらなくなったという人がいます。それは家系図に記されているご先祖が何も語らず、沈黙した存在だからです。彼らが饒舌に自らの人生を語りはじめたとしたら、とたんにご先祖は身近な存在となり、子孫のあなたはその話に耳を傾けたくなるはずです。
 家系図作りを心から楽しむためには、我々は、ご先祖が語りかけてくるような家系図を作らなければならないのです。