受講する内容


 私の講座で受講する内容をご紹介します。

 江戸後期までのご先祖の名前を知るだけであれば、古い除籍を取り寄せれば事足ります。私の講座では、除籍の取得は始まりでしかありません。その除籍に書かれている内容を本当に理解し、そこにある情報からご先祖家族の暮らしぶり、人間関係、経済状況、社会との関係性などをできる限り復元、推理することを学習の目標としています。

 そのため講座で学ぶことは多岐にわたります。日本史、系図学、家紋、古文書解読、人名学、歴史人口学、民俗学など、かなり専門的な知識も取り上げます。

 除籍から始まって、文献調査に進み、資料収集を行い、現地調査を試みることになりますが、授業で学んださまざまな調査方法を実際に行うかどうかは受講された方々の自由意志に任せています。

 たとえば、本州の見知らぬ同姓にアンケートを送るような調査については躊躇する人が結構います。そういう気持ちもよく分かるからです。しかし、そういう調査方法があること自体を知らなければ、行う行わないという以前の問題です。まずはいろいろな調査方法を知っているということが大変に重要なことなのです。そのため私の講座では家系図作成に必要な知識を体系的に幅広く学べるように工夫しています。

 これらの講習内容は授業計画というわけではありません。そのため振られている順番通りに授業が進むわけではありません。前後することがよくあります。また、ここに載せていないテーマを取り上げることも頻繁にあります。全体授業とは別に、個々の受講生の方の家系について、個別に指導することもあります。

 私の講座では、4月入学、9月入学のような受講開始に適した時期というものはありません。随時受講を受け付けています。皆さんが本格的に家系を調べようと思った時が最適な受講開始の時です。


現在取得できる最も古い様式の戸籍 明治19年式
現在取得できる最も古い様式の戸籍 明治19年式

 

1)戸籍・除籍・改製原戸籍の取得

 現在使用している戸籍の全部事項証明書から作業を開始して、現在入手できるもっとも古い除籍(通常は明治19式戸籍)、および改製原戸籍(様式変更前の戸籍)の謄本(全員記載)を取得します。除籍の申請はご先祖の本籍地(故地)が遠い場合が多いため、通常は郵便で行います。すでに除籍などを取得済みの方は、取り漏らしがないかをチェックします。

 なお、私の講座では父方など、特定の一系統だけではなく、ほかの系統の除籍も取りそろえることをお勧めしています。なぜなら除籍には150年間という保存期間が定められているからです。期間切れになったものは廃棄されてしまいます。将来に備えて保全しておくことをお勧めしています。また、複数系統をさかのぼるほうが、手間はかかりますが、間違いなく家系調査の楽しみは増えるからです。

 

2)除籍の解読

 除籍謄本には変体かな、異体字がよく使用され、明治時代の民法に基づく戸籍用語も頻出します。これらを理解しないと系図化することができないだけでなく、せっかく取得した除籍謄本などから十分に情報を得ることができません。そこで文字の解読、用語の意味について幅広く学びます。


3)除籍の系図化

 入手した戸籍・除籍・改製原戸籍の続柄をよく理解し、家系図(一系統のみの系図)と血系図(父母、祖父母と倍々で血の流れをさかのぼる家系図)を作成してみます。同時に系図の書き方についても学びます。

 原則としてはパワーポイントかエクセルで系図を作ることをお勧めしますが、家系図の作成を助けてくれるソフトやアプリもいくつか公開、販売されています。それらを利用することもできます。


4)旧土地台帳の取得

 全国の法務省には明治22年(1889)以降の土地の所有者を記載した旧土地台帳、土地の形を描いた和紙公図が保管されています。ご先祖が本籍地を置いていた土地(故地)の旧土地台帳を取得します。旧土地台帳には専門用語が使用されていますので、解読方法についても学びます。

 ここまでの調査がまずは基本です。これらの情報が集まった時点で、故地ツーリズムに旅立つと、よりご先祖の存在をリアルに感じることができるでしょう。故地ツーリズムについては、当HPの故地ツーリズムをご覧ください。旅立つ前に9)同姓分布の確認、12)地名辞典を読む、も終了しておけば、故地で素晴らしいひらめきがあるかも知れません。


5)軍歴証明書の取得

 昭和以降の軍人の履歴を入手します。陸軍は都道府県庁、海軍は厚生労働省が保管しています。戦死者の記録は陸海軍ともに厚生労働省にあります。シベリア抑留の記録も厚生労働省です。入手後は軍歴証明書に書かれている専門用語を学び、内容を理解します。


6)学籍簿の取得

 ご先祖が通っていた小学校・中学校・高校・大学に保管されている学籍簿、成績原簿、卒業生台帳の写しを取得します。これらの記録によって在籍・卒業年度が確認でき、成績や親の職業などを知りえることもあります。申請先は通っていた学校、または教育委員都会となります。ただし、卒業生台帳は永年保存文書ですが、ほかのものはそうではないため、残存状況はまちまちです。


7)人事記録の取得

 ご先祖が公務員だった場合は、所属していた役所に人事記録が保管されていることがあります。中央省庁であれば情報公開法、地方自治体であれば、それぞれで定めている情報公開条例を確認し、開示の申請を行うことになります。オンライン申請も可能です。情報公開とはいえ個人情報の取扱いは厳密です。ただし、故人となった公務員の職歴に関しては開示されることが一般的です。とくに申請者がその人物の直系卑属(子孫)であれば、記録自体が現存している限り、まず開示されるでしょう。ただし、公文書館などに移管された公文書については、情報公開法の適用外となりますので、それぞれの公文書館のガイドラインに従って、レファレンス(照会。問い合わせ)を行うことになります。

 企業の場合は戦前の商工紳士録などから会社を調べ、その会社が存続している場合は照会を依頼します。


8)引揚者給付金・同特別交付金記録の照会

 昭和20(1945)年の終戦時、外地(樺太・朝鮮・満州・台湾・中国・南洋など)にいた人は戦後、引揚者給付金・同特別交付金を受給している場合があります。これらの記録を照会することによって引揚前の住所、職業、内地時代の本籍地、引揚船の名前、乗船した家族の氏名などが判明することがあります。また、国立公文書館が保管している「引揚者在外事実調査票」も外地時代の生活状況を知るうえで多くの情報を教えてくれます。


9)同姓分布の確認

 写録宝夢巣(シャーロックホームズ。日本ソフト販売)のような電子電話帳を使って同姓の分布、住所、氏名を把握し、家系情報(家紋、菩提寺、墓地、家系図所有の有無、本家名、屋号、ご先祖について言い伝えなど)の提供をお願いするお手紙を送ります。デジタルではなく紙の全国の電話帳は主要な図書館に行くと見られます。分布だけなら、次のサイトでも知ることができます。また、ある地域の同姓の居住状況について知りたいときは、ゼンリンの住宅地図が役立ちます。

 同姓アンケートの返信率はあまり高くはありません。原因は個人情報保護法の浸透、見知らぬ人に対する警戒感などがあげられますが、一言で言うと、こちらの身元を明らかにしない限り、受け取った相手もプライベートな情報は教えてくれないということです。そこで返信率を高めるテクニックをお伝えしましょう。

 同姓アンケートの手紙は、ワープロで打つよりも、手書きで書いたものを必要な部数コピーしたほうが返信率は高まります。そのさいも宛名だけは手書きが望ましいでしょう。またこちらの免許証などの公的書類の写し、家族写真などを添えると、ますます返信率は高まります。


10)菩提寺への照会

 北海道の場合、ご自分のご先祖の本州時代の菩提寺が不明の方がいます。そのときは現在の宗派を手がかりにして、出身地(故地)周辺の寺院に問い合わせをします。お寺を探すときにはGoogleマップなども利用します。


11)過去帳の整理と系図化

 過去帳には戒名(法名・法号)と俗名・続柄・享年などが記されています。続柄を手がかりにして系図を作り、戒名を構成している院号や道号、位号について学びます。


12)地名辞典を読む

 『角川日本地名大辞典』(角川書店)と『日本歴史地名大系』(平凡社)を読んで、ご先祖が住んでいた村の歴史を知ります。これらの文献には村の領主は誰か、戸数と人口はどれくらいか、米の生産高はいくらか、年貢(税金)はいくらか、特産物は何か、神社と寺院の名前など、多くの情報が書かれています。


13)郷土誌を読む

 ご先祖が住んでいた土地の郷土誌を読みます。まずは小さな範囲を扱った地域史から始めて、じょじょに範囲を広げて市町村史、都道府県区史へと読み進めていきます。地方の郷土誌がお近くの図書館に所蔵されていない場合があります。そのときは図書館間相互貸借の制度を利用して取り寄せることになります。また、地域には古代から現代までの代表的な郷土人物の履歴をまとめた人名辞典が各種刊行されています。このような辞典も重要な情報ソースとなりますので、必ず調べましょう。


14)デジタルアーカイブの利用

 現在では数多くの歴史史料がデジタルアーカイブ化(デジタル処理)され、所蔵機関のサイト上で原本の画像を閲覧することができます。そのなかには全国の紳士録や商工名鑑、藩士名簿、系図類などが大量に含まれています。これらを積極的に利用するご先祖調べは、まさに情報のデジタル化が進んでいる21世紀にふさわしい調査方法ということができるでしょう。今後、ますます発展する可能性が高い分野です。また公文書館の件名検索を利用することにより、ご先祖の名前が書かれている文書を自宅で発見する楽しみもあります。


15)分限帳の調査

 ご先祖が武士だった場合、あるいは武士であったかどうかを確認する場合は、藩士の名簿を調べます。これを分限帳といい、活字化されたものもあれば、古文書の状態で文書館などに保管されていることもあります。当HPの「藩士と幕臣の系図と名簿」では、全国に現存している分限帳、侍帳、着到帳、士族名簿などのうち、江戸後期から明治にかけてのものを紹介しています。この年代の分限帳は除籍に登場するご先祖の名前が記載されている可能性の高いものですので、ご先祖が武士だったという方は是非ご覧ください。


16)藩政史料の調査

 藩が作成した文書群を藩政史料といいます。武士の場合は必ず調べなければならないもので、江戸時代に藩士が提出した系図が残されていることがあります。また藩の事務日誌などにご先祖の名前が登場することもあります。当HPの「藩士と幕臣の系図と名簿」では、全国に現存している藩士系図の所在、収録されている藩士苗字をほぼすべて紹介しています。ご先祖が武士だった方は是非ご覧ください。


17)村方文書を探す

 村方(地方)文書とは江戸時代に作られた村に関する文書のことです。江戸時代の戸籍である宗門改帳や人別帳、土地関係の検地帳や名寄帳、行政関係の五人組帳など、村人の名前が確認できる文書がいろいろとあります。これらの文書は郷土誌(都道府県市町村史)に収録され、全国の公文書館などにも所蔵されています。以下の関連サイトの検索窓に「宗門改帳」「人別帳」と入力しても、さまざまな情報が表示されます。


18)新聞を調べる

 明治以降の新聞は家系調査の役に立ちます。読売・朝日・毎日新聞などは創刊からの記事を検索することができるので、目を通します。地方紙はより高い確率でご先祖が記載されている可能性があります。記事だけではなく、葬儀の広告などにも注目します。


19)調査演習

 一人の受講生さんの家系について教室の全員で意見交換をします。その受講生さんが集めた記録、あるいは記録を基にまとめたレポートを全員に配り、私がそれを解説しながら、今後の調査方針について全員で話し合います。この演習では、系図の信ぴょう性を検討する系図証明標準(GPS)の方法についても学びます。 



20)古文書演習

 除籍の女性名には変体かながよく使われ、事項欄には異体字も出てきます。江戸から明治時代にかけての古文書を読むためには、くずし字を解読する力と候文を読み下す知識が必要になります。そのため、まずは人名からくずし字の解読を勉強します。

 

 以上の調査で1600年代までの家系を明らかにすることを講座の目標としています。家系図は調査を続ける限り広がり続けますが、区切りをもうけて調査の途中で家系図化することをお勧めしています。

 1600年代は幕府の寺請制度が始まった時期であり、お寺の過去帳に檀家の戒名が書かれ始めたころでもあります。この年代までは歴史的な記録によってほぼ個人の家系を復元することが可能ですが、それ以前はごく一部の公家・武家をのぞくと歴史学の一級資料を用いて史料批判に耐えられ家系図を作成することは残念ながら不可能となります。


 とはいえ、たとえば苗字が小笠原さんで、家紋が三階菱や松皮菱、出身地が信州(長野県)ということになれば、第56代清和天皇(850-81)の流れをくむ清和源氏小笠原氏族の子孫ではないかと歴史ロマンを抱いてしまう気持ちもよく分かります。

 歴史的な史実と推測を混合してはいけませんが、趣味としての家系図の世界では、もしかすると自分の家は清和源氏や信濃小笠原氏とつながっているかも知れないと夢見る自由はあります。そういう夢を持つほうが家系調べが面白くなるのも事実です。

 そこで次のようなテーマの授業も行なっています。


21)『姓氏家系大辞典』を読む

 226事件が起きた昭和11年(1963)に刊行された専修大学教授太田亮博士の『姓氏家系大辞典』には、約5万姓のルーツについて詳細な解説がされています。現代の苗字やルーツ関連本でこの辞典の影響を受けていないものはないといわれるほどの名著ではありますが、旧かなづかい、旧漢字で書かれ、引用文献の書名は短縮され、頻出する歴史用語にはまったく説明がありません。そのため自分の苗字の部分を見たが、書いてある内容がわからないという声があとを絶ちません。そこで、私の講座で『姓氏家系大辞典』の記述を読み解く授業をしています。


22)家紋について知る

 家紋は苗字を絵化したものといわれ、ルーツを推測する上で重要なヒントになります。まずは家紋の始まり、公家家紋と武家家紋の歴史の違い、主要な家紋の由来などを知り、家系調査に役立てる方法を学びます。正確な家紋が分からないという方の場合は、自家の家紋を確認する方法も学びます。参考サイトの『日本紋章学』は家紋研究の先駆者沼田頼輔氏の先駆的な大著で、同書で沼田氏は昭和元年(1926)、帝国学士院恩賜賞を受賞しました。


23)日本人のルーツについて考える

 日本人のルーツをさぐると「源平藤橘」にたどり着くとよく言われます。源氏・平氏・藤原氏・橘氏です。実際はそんなことはなく、これらの四大姓は古代の氏族を次々と取り込んでいって日本を代表する大族となったわけですが、江戸時代以降に作成された系図には必ずといってよいほどこの四大姓が登場します。そのため四大姓については発生・歴史・本支の系図を学びます。ほかにも菅原氏や小野氏、武蔵七党など主要氏族を取り上げます。

 また地名由来や官職由来、職業由来など、苗字の由来についても考察します。

 

24)江戸時代の庶民の暮らしを知る

 ご先祖を知る面白さは、ただ名前を発見することだけではありません。ご先祖が生きた社会環境を理解することによって、見えてくることが実に多くあります。そのために必要な知識が歴史人口学であり、民俗学であり、地方史学であり、江戸風俗です。これらの学問を通じて、江戸・明治に生きたご先祖の暮らしについて考えてみようという授業を行なっています。


25)江戸時代の武士の暮らしを知る

 江戸時代の支配階級であった武士の社会について学びます。どれくらいの給与をもらっていたのか、その給与はどのような方法で支払われていたのか、どのような仕事をしていたのか、上級武士と下級武士は何が違っていたのか、株の売買や入れ子とは何か、など知ることによって武家社会を理解できる事柄が多くあります。それらについて具体的に学んでいきます。


 受講期間というものは特にありません。

 私は除籍を取り寄せることは、家系図作成のスタートラインに立つことでしかないと思っていますが、3か月で除籍が一通りそろうと辞められる方もいます。一方で、これらの調査方法をいろいろと試したり、研究したりして20年近く通い続けている方もいます。

 熱心にご自分のご先祖を調べている受講生さんをみていると、家系図を作るという趣味は、本当に知的な行為であり、深く極めれば一生ものの趣味になるものだと、私はいつも痛感しています。