系図協会の設立

 海外には無数の系図協会があります。組織は学者を中心としたものから、アマチュアの愛好者を中心としたもの、特定の国や地域の家族歴史をテーマにしたもの、公立のものから民間のものまで実にさまざまです。これらの系図協会は先祖調査に関する知識習得の場であり、会員同士の情報の共有の場であり、交流の場であり、最新のニュース提供の場として活発に機能しており、愛好者の増加に大きく貢献しています。

 たとえば、アメリカで1万人以上の会員を抱える全米系図協会(National Genealogy Society.NGS)は1903年にワシントンDCで結成され、120年の歴史を誇ります。その主な活動は次のようなものです。


・年次総会

 協会の今後の方針を発表し、財務報告や参加者との質疑応答をおこなう大会です。コロナ下ではオンラインで開催されました。

・表彰

 協会は家族歴史探求に貢献した個人および組織、図書館などを毎年表彰しています。賞の種類は多く、The Rabbi Malcolm H. Stern Lifetime Achievement Awardは地域の家族歴史活動に貢献した人物に贈られます。Fellow of the National Genealogical Society (FNGS)は協会に顕著な貢献があったか、系図及び歴史、伝記、紋章学の分野で傑出した業績を上げた人物に贈られます。Filby Award for Genealogical Librarianshipは系図と郷土史に貢献した図書館職員に贈られます。このほかにもさまざまな賞があります。

 また最高の栄誉として毎年、全米の有名な系図学者で構成された全国系図殿堂委員会が系図学に多大な貢献をした物故者一名を選出し、殿堂入りさせてその業績を永久に讃えます。

・コンテストの開催

 過去3年間に出版された家族の歴史をつづった本、家系図、研究書の中から優れたものに賞を贈ります。また、Rubincam Youth Writing Competitionでは中高生の作った家系図を審査し、優れた出来栄えのものに優秀賞を贈ります。Senior(日本の高校生)には賞金500ドルと記念の盾、1年間のNGS会員資格、Junior(中学生)には賞金250ドルと記念の盾、1年間のNGS会員資格 が与えられます。

 協会は次世代をになう青少年の育成に努めています。

・講演会の開催

 協会に加入している各種団体で開催される講演会を後援し、HPなどで参加を呼びかけます。

・オンライン講座の配信 

 初心者、中級者、上級者などあらゆるレベルに向けた家族歴史探求講座を開催しています。形式はeラーニング、オンライン、グループなど多様です。「土地記録の調べ方」「独立戦争」「南北戦争」「アフリカ系アメリカ人のルーツ」「古文書を読む」「第一次世界大戦」「17〜18世紀のドイツ人の祖先」など、特定の分野に特化した専門講座も充実しています。

・文献の出版

 「NGS Books」という家族歴史探究者向けの文献を出版しています。基本的な調査方法のガイドブック、遺伝子検査を用いた先祖調査(遺伝系図学。Genetic Genealogy)の手引書、系図証明基準の解説書などがベストセラーになっています。

・機関誌の発行

 年に4回、会員向けに「NGSマガジン」という機関誌を発行しています。会員の投稿や系図学の最新ニュース、調査関連記事など内容は充実しています。編集は会員が担当し、広告も募集しています。このほかやはり年4回発行の「National Geneological Society Quarterly(NGSQ)」という専門的なテーマを読みやすく解説した80頁ほどの冊子、毎月電子メールで会員に送信する「NBGマンスリー」という会報も発行されています。

・調査旅行

 ユタ州ソルトレイクシティにあるファミリーサーチ図書館、またはワシントンDCにある国立公文書館、米国議会図書館などを巡って先祖を調べる研修旅行を実施しています。

・有益な記事の配信

 全米系図協会の重要な目的の一つは家族歴史を探求する愛好家を育てることです。そのため、まだ先祖探求を開始していない人やおぼろげな興味は持っているけれども方法がわからないという人々に向けて、協会は有益なWeb記事を随時更新しながらHPに掲載しています。

・YouTubeチャンネル

 協会はYouTubeチャンネルを開設し、協会活動(年次総会および代表評議員会議の様子など)や家族歴史探求に関連する約140本(2023年7月時点)の動画を配信しています。

・NGS家族文書コレクション

  これは会員のみがアクセスできるページです。協会の収集した記録が閲覧できます。

・会員限定のコミュニティフォーラム

 会員は協会運営のフォーラムに参加し、自分の興味あるディスカッションリストを立ち上げることができます。

 個人会員の会費は1年間75ドル。2年割引だと140ドル、3年割引だと205ドル。家族会員という制度があり、同居している家族は2名合計で年間95ドルに割引されます。ほかに団体や学会会員というものがあり、これには各地にある系図愛好者の団体、図書館、博物館、資料館、大学が含まれます。

 協会は基本的には非営利ですが、年間に約3億円ほどの収入があります。その主な収入源は会費とストアでの書籍販売などです。また随時、寄付も受け付けています。2023年は創立120周年を記念して120ドルの寄付を呼び掛けています。


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 現在(2023年7月)の会長・Kathryn M. Doyleさんはサンフランシスコ在住で父親はアイルランド系、母親はなんと日本人です。ミシガン大学薬学部を卒業し、薬剤師として働いていました。家族歴史の研究歴は20年以上です。興味深いのはDoyleさんを支えている副会長2名も女性。会の活動に強い発言力を持つ代議員評議会運営委員会という組織があり、12名のメンバーがいますが、議長のKate Townsendさん以下、10名が女性です。欧米の家族歴史探求を牽引しているのは女性とよく言われますが、このメンバー構成を見てもそれは正しいでしょう。

 我が国にもこのような協会があれば、愛好者は同好の士と簡単に連携することができ、情報共有できます。そして全米系図協会と同じように啓発活動、初心者への教育、宣伝に積極的に取り組めば、家族歴史探求という趣味は社会的に認知され、趣味人口も着実に増えるでしょう。

 現在の日本で最初から全米系図協会のような大規模な組織を結成することはハードルが高すぎますから、第一歩は同好会的なグループでもいいでしょう。そこからじょじょにメンバーを増やし、体制を整え、将来的には全米系図協会のような組織が誕生することを切に望みます。

 なお、イギリスにも系図学を奨励普及させる目的で1911年に設立されたSociety of Genealogists(系図学者協会)という団体があり、約1万人の会員が所属しています。

 我が国に「(仮称)日本系図協会」のような団体が設立された場合、一般社団法人を取得し、系図証明基準の普及先祖調査能力の認定試験日系人のサポート故地ツーリズムなどは、その協会で実施するのが最適かも知れません。まずはそのような協会の設立を目標にして、第一歩を踏み出す必要があるでしょう。

 将来の協会設立について私と話し合いたいという方がいましたら、問い合わせ欄からメールでご連絡ください。