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 自らのルーツをさかのぼる小説。そんな小説の代表が安岡章太郎氏の『流離譚』上下巻です。安岡氏は残された日記や書簡を手掛かりにして土佐安岡一族のルーツをたどり、会津戦争で戦死した者、藩の参政吉田東洋を刺殺し、天誅組に入って刑死した者、維新を生き抜き自由民権運動に身を投じた者など、安岡一族を通して幕末維新を見つめなおします。日本文学大賞受賞した名作です。ほかに山口瞳氏の『血族』も有名なルーツ小説です。自分のことをほとんど語らずに亡くなった母親の出生の秘密をさぐるお話です。ミステリーとしても面白いです。続編に父親の実像を探った『家族』があります。



 一風変わったルーツ小説としては家系調査の業者が登場する物集高音氏の『血食ー系図屋奔走セリ』があります。物語は面白いですが、衒学すぎる文章は読み手を選びます。高橋秀実氏がご自分のルーツを探ったノンフィクション『ご先祖様はどちら様』も楽しめます。



 海外のルーツ小説といえば、何といってもアレックス・ヘイリーの『ルーツ』全3巻でしょう。それまで家系調査が不可能と思われていた黒人奴隷のルーツをアフリカ大陸までさかのぼり、白人社会に衝撃を与えました。1976年に本が出版されると、すぐにドラマ化されてこちらも大ヒットしました。日本でも放映され、戦後のルーツブームの引き金になったといわれています。『ルーツ』は近年、再びドラマ化されました。続編に『クイーン』上下巻があります。



 ほかにも外国のルーツ小説としてはダンカン・カイルの『踊らされた男たちー大統領候補の系図を追え(改題 呪われた血脈)』があります。主人公の系図調査員ドットはアメリカの大統領候補の家系調査を依頼され、公文書館や登記所などをまわって記録を集めます。イギリスにおける家系調査の手法が垣間見える珍しい小説です。最近ではイギリスの作家スティーヴ・ロビンソンのデビュー作『或る家の秘密』も主人公がアメリカ随一の家系調査士という設定です。ミステリー好きの方にはお勧めします。

 またアメリカの女流作家アン・ジョージの推理小説『さわらぬ先祖にたたりなし』(おばあちゃん姉妹探偵3)にもメグ・ブライアンという優秀な系譜調査員が登場します。このメグが殺されることから事件が始まるのですが、読んでいるとアメリカでは、数多くの女性の系譜調査員が活動していて、図書館では職員とともに家系を調べに来た人をサポートしていることがよく分かります。




 国が変われば姓に対する意識も変わります。ヨーロッパに行くとあだなや髪の毛に由来する姓があるとおもえば、モンゴルには姓がありません。世界の姓についての本を3冊紹介しましょう。また名前について解説している本もいっしょに載せておきます。



 埼玉県の小学校教諭である齋藤武夫氏は歴史の授業で「歴史の中にはご先祖様が生きている」ことを子供たちに教えています。この斎藤先生の授業を受けた生徒たちは、歴史の中に自分のご先祖が生きていたことに気づかされ、歴史を他人事ではなく、自分と深く関わる存在として認識するようになります。



 世界中の人々のミトコンドリアDNAをさかのぼっていくとアフリカにいた一人の女性(イヴ)にだとりつくことを分かりやすく説明した『イヴの七人の娘たち』は世界的なベストセラーになりました。その続編『アダムの呪い』では、著者サイクスが自分と同じ姓をもつ他人のY染色体を調べることから始まります。すると父方の遠い先祖がつながっていることが分かりました。そこからY染色体をめぐる旅が始まるのです。どちらも遺伝子を用いた興味深いルーツ研究です。



 欧米では病気予防だけではなく、遺伝子検査がルーツ調べにも利用されています。日本でもミトコンドリアDNAやY染色体を検査して、遠いご先祖が属していたハプログルーブ(遺伝子が似ている集団)を教えてくれるサービスがありますので、興味がある方はどうぞ。アマゾンで検索すると、いくつか商品がヒットしますので、そのうちの一つを参考として紹介しておきます。商品の内容については、ご自分でよくご検討ください。



 人にはものすごく大勢のご先祖がいて、そのひとたちがみんなつながっているんだよ、ということを改めて教えてくれる素敵な絵本を二冊紹介します。ぜひお子さんに読んであげてください。もちろん大人が読んでも心に残ります。



 臨床心理学では家系図を家族療法のさいに利用します。そういう家系図をジェノグラム(家族地図、心理的家系図)といいます。援助者は相手の家族関係をよく理解するためにジェノグラムを作成し、そこからさまざまな心理的要因を読み取っていくのです。詳しくはモニカ・マクゴールドリック他『ジェノグラムのはなし 家系図と家族療法』を読むといいでしょう。フロイト、ルーズベルト、ケネディ、フォンダ家など、有名人のジェノグラムを通じて、その一族がかかえていた問題を分かりやすく解説しています。ジョン・ブラッドショウ『ファミリーシークレット―傷ついた魂のための家族学』もジェノグラムから読み解く依存症の入門書として興味深く読めます。

 また妊娠中の母親が食べたもの、環境、ストレスによって生まれてくる子供の遺伝子が発現(スイッチがONになること)し、その状態が数代にわたって続くことを証明したエピジェネティクス(後成遺伝学)にも家系図は利用されます。生物学の世界で近年熱く語られているエピジェネティクスについて詳しく知りたい方は『双子の遺伝子』をお読みください。