松下姓の由来

2019年12月13日
静岡県 美保の松原
静岡県 美保の松原


 朝ドラの「スカーレット」に出演中の松下洸平さんは東京出身。この松下という苗字は地名発祥で、全国の松下地名から生まれました。使用人数は13万7000人ほど。関東以西に広く分布していますが、とくに静岡県と鹿児島県に多くの方が住んでいます。


 静岡県の松下氏といえば、豊臣秀吉がまだ藤吉郎と名乗っていた青年時代、家来として召し抱えて可愛がったという今川家臣の松下加兵衛之綱が有名です。之綱は秀吉が天下人になるとこれに仕えて1万6000石の大名に取り立てられました。娘のおりんは徳川将軍家の剣術師範柳生宗矩に嫁いでいます。
 昭和ではパナソニックを創業して「経営の神様」といわれた松下幸之助さんが有名ですね。和歌山県海草郡和佐村(現、和歌山市禰宜)の出身で、大きな松の木の下に屋敷があったことから松下姓を名乗ったといわれています。

 松下の語源は、一般的には「松の木の下(ほとり)」「松林のほとり」のことですが、全国の松下地名を調べてみると、それ以外の語源もあります。
 たとえば町やある区画のことを昔は「まち」と言いましたが、この「まち」が転じて「まつ」になり、縁起の良い松の漢字が当てられることもありました。
 町田よりも松田が圧倒的に多く、町本という地名・苗字ともにほとんどいないのに対して松本という地名・苗字は大変に多いことを考えると、「まち」地名の大半は佳字の「まつ」に転訛し、松の文字が当てられたことが分かります。

 松がなぜ縁起の良い木かと言うと、まずは年間を通じて葉が落ちない常緑樹であることが、生命力の強さと家の繁栄を象徴しているとされました。また、「まつ」は神様の降臨を「待つ」に通じるとされ、伝説でも天女は決まって松の木に舞い降りてきます。このような理由から、松は松竹梅の筆頭に数えられたのです。

 面白い「まつ」地名の語源としては、福島県などのマタギが使う「まつ」があります。この「まつ」はマタギがじっと身を潜めて熊を狙い撃ちにする場所、隠れて「待って」いる場所のことを言います。東北の山間部の「まつ」地名の中には、これに由来するものもあるでしょう。

 最後に下は場所や低地を意味し、地名・苗字では本と相通じて用いられますから、松下さんと松本さんは兄弟のような関係ということになります。古来から下が本と共通して使われてきたかは、元大阪市長の橋下徹氏の橋下が「はしもと」と読むことからも分かります。古くは「〇下」と書いて「〇もと」と読む地名が全国にありました。