過去帳を読み解く


 今回は家系図作成のため過去帳を読み解きます。

 ご先祖が葬られたお寺(菩提寺・旦那寺)には埋葬者台帳である過去帳が保管されています。全国の寺院に過去帳が備え付けられるようになったのは、17世紀(1600年代)からのことで、火災や洪水などで失われていなければ、17世紀以降の檀家(檀那)の氏名、没年月日、戒名を知ることができます。自宅の仏壇にある過去帳は、お寺の過去帳から自分の家のご先祖だけを抜き出してまとめたもので、通常はお寺のご住職に頼んで作ってもらいます。本家には判明している初代からのものがあり、分家には分家した以降のものが作られて渡されます。

 お寺の過去帳には大変に多くの人が記載されています。分厚い過去帳だと一万人以上に及びます。記載の方法は朔日(一日)から晦日(三十一日)まで、亡くなった日付順に書かれています。お寺によっては檀家ごとにご先祖の戒名をまとめた檀家帳を作っているところもありますが、原本の過去帳には日付順でいろいろな家のご先祖がランダムに並んでいます。そのためご住職にご先祖を探してもらうときには、亡くなった日付を必ず知らせましょう。亡くなった日付がわかるときと分からないときとでは、探すご住職の労力が大きく異なるからです。どちらの場合もご自分のご先祖調べに協力して下さったことに感謝して、お布施を渡すのが礼儀です。とくに何の手掛かりもない状態で調べてもらうときには、それなりの額を包むべきでしょう。またお寺の過去帳は檀家のプライベートなことが書かれている非常に扱いが難しいものですから、たとえご先祖の菩提寺であっても見せてもらえないこともあります。そういうときにはお寺側の事情をよく理解して、あまりしつこくお願いはせず、あきらめる潔さも大切です。くれぐれもお寺側にご迷惑をかけないように振舞いましょう。

 お寺の過去帳は秘匿性の高いものですから、ほとんどの部分をぼかし、問題のない範囲だけを公開します。

寺院の過去帳
寺院の過去帳

  1. 「正徳五未ノ四月」とあります。正徳5年(1715)4月のことで、この年の十干十二支が乙未(きのとひつじ)なので、未の文字が入っています。江戸時代の年号表記ではしばしば十干十二支が記入されます。ときには正徳未としか書かれないこともありますので、十干十二支が付いている年表があると便利です。十干十二支は60通りあり、それが一巡することを還暦といいます。
  2. 「信士(しんじ)」とあります。戒名は〇〇〇〇信士という文字構成になっています。最初の2文字は道号といい、海、山、岳、花、月、春などの物を表す文字がよく使われます。次の2文字が戒名です。〇〇〇〇信士をひとまとめにして戒名と呼ぶのが一般的ですが、厳密には道号のあとの2文字のみを戒名といいます。戒名は仏の弟子になったことをあらわす名前です。俗名の一文字を入れることがよくあります。人徳や性格にちなむ文字もよく使われます。宗派によっては戒名とはいわず、浄土真宗では法名、日蓮宗では法号といいます。浄土宗では誉号といって、道号の2文字目に必ず誉が入ります。日蓮宗では日号といって、法号の2文字目に日が使われます。このほかにも宗派によって文字構成に特徴があるため、戒名を見ただけで宗派を判断することができることもあります。信士は位号というもので、戒名のランクを示すものです。一般の男性には信士、女性には信女。武士や社会的な地位の高い人、お寺に貢献した人には、男性であれば居士、女性には大姉が付けられました。大名や公家などにはさらに格上の大居士が贈られます。
  3. 位号の大姉です。この女性は一般の女性(信女)から比べると、格上の存在だったことがこの位号から推測されます。男女ともに院号が付く場合もあります。その場合は院号+道号+戒名+位号の構成になります。大名クラスになると。院号よりも上の院殿号が贈られることもあります。戒名はたった10文字に満たないような文字ですが、道号と戒名の文字からは亡くなった人の俗名、性格、業績などを推測することができ、院号や位号からは社会的な立場、経済力、お寺への貢献度(信仰の深さ)などを知ることができるのです。
  4. 「八三郎(良)父」と書いてあります。過去帳には通常、戒名と歿年月日、俗名と続柄が書かれています。ほかに死因(病名など)、職業、住所が書かれているものもありますが、宗派によって詳しさには差があります。浄土真宗の過去帳は全般的に記述が簡潔です。
  5. 童男と童女は幼くして亡くなった子供につけられる位号です。一般的には数え15歳以下で亡くなった子供に使われます。数え5歳くらいだと孩子(がいし)・孩女(がいにょ)、数え3歳くらいまでだと嬰子(えいじ)・嬰女(えいにょ)が使われることもあります。生まれる前に亡くなった子供には水子(すいし)が使われます。

 皆さんのご自宅の仏壇にも過去帳や古い位牌があると思います。改めてよく見てください。たった10文字に満たない文字列ですが、この文字列は暗号のようなものです。解読することによって、実にいろいろなことが読み取れるのです。